新幹線トンネルのひび割れをAIで自動検出、JR東日本が日本初導入

JR東日本は2025年4月8日、新幹線トンネルのひび割れをAI画像解析により高精度で自動検出できる技術を実用化したと発表した。国内初の技術として、今年度中に本格導入を予定しており、夜間作業の負担軽減や安全性の向上が見込まれている。
AIが見抜くインフラの劣化、夜間作業の省力化と安全性向上へ
JR東日本が今回発表した技術は、トンネル内の劣化状況を高精度かつ自動で診断する仕組みだ。AIを活用した画像解析によって、コンクリートのひび割れを検出し、過去のデータと照合することで進行具合を比較する。
この比較により、今後の劣化進行を予測可能とするシステムが構築された。
従来の検査では、作業員が現地で目視と打音により確認を行っていたが、作業の質は担当者の経験に大きく依存していたため、精度にバラつきがあった。
AIによる検出では、専用車両がトンネル内を撮影し、そのデータを深層学習アルゴリズム(※1)で解析するため、検出の客観性と再現性が格段に向上する。
さらに、これまで人の手で作成されていた「変状展開図(※2)」もAIが自動で生成できるようになることで、業務負担が軽減される。
ひび割れの検出だけでなく、漏水などの異常にも対応可能となり、従来の検査方式では見逃されていた微細な変化も正確に把握できる。
この技術により、夜間の作業時間が約2割削減される見込みだ。夜間作業は列車運行の終了後に限られるため、時間との戦いとなることが多かったが、新技術の導入によってリスクを抑えながら検査効率を引き上げることが期待される。
インフラ管理におけるAIの可能性
JR東日本の新幹線網には206カ所のトンネルが存在し、その総延長は約440キロメートルに達する。インフラの老朽化が社会課題となる中、これらを効率よく維持・管理していくためには、従来の人力中心の作業体制では限界がある。そこで求められるのがAI技術による自動化と精度向上だ。
JR東日本は今後、さらなる画像データの活用やAI画像解析の技術開発に取り組んでいくとのことである。
国土交通省が提供する鉄道統計データを活用することで、全国的なインフラ保全の取り組みとの連携も視野に入ってくる可能性があるだろう。AIを中核に据えた検査体制が確立すれば、地方を含めた広域な鉄道網にも展開可能となり、維持コストの削減と安全性向上を同時に実現できると考えられる。
マーケターや技術者にとっても、AIが持つ実務領域での応用力がよりリアルなかたちで示された事例であり、インフラ×AIの連携が生むビジネスチャンスにも注目が集まる。新幹線という公共インフラの象徴にAIが導入されるという事実が、その社会的信頼性の高さを裏付けていると言える。
※1 深層学習アルゴリズム:AIの一分野である機械学習の技術。大量の画像データから特徴を抽出し、パターンを学習することで未知の画像に対する認識精度を高める手法。
※2 変状展開図:トンネルや橋梁などの構造物における、ひび割れや漏水などの異常箇所を視覚的に示した図面。定期的な記録により、劣化の進行を把握するために使われる。