台湾、中国が生成AIによる偽情報拡散で社会分断を図っていると指摘

2025年4月8日の報道によると、台湾国家安全局は、中国が生成AIを用いて台湾に関する偽情報を拡散し、台湾住民の分断を図っていると指摘した。
生成AIが加速させる「認知戦争」、台湾の政治・経済を狙う偽情報拡散
台湾国家安全局の報告によれば、2025年に入って以降、中国が生成AIを活用して発信したとみられる偽情報が急増している。検知されたメッセージはすでに50万件を超えており、その多くが台湾の政治的・経済的な出来事と連動する形で拡散されているとしている。
頼清徳総裁の中国に関する演説や、台湾積体電路製造(TSMC)が米国に大型投資を決定した際などのタイミングで、「(台湾)社会に分断を生む」目的で「認知戦争」を仕掛けたと指摘した。
国家安全局は、中国共産党がAI技術を積極的に導入し、プロパガンダ活動を効率化していると指摘する。従来の人的手法による情報操作に比べ、生成AIは圧倒的なスピードとスケーラビリティを持つため、短期間で世論に影響を及ぼす力を持ち得る。
特に選挙や外交発表といった社会の分岐点で投入されることで、台湾内部の意見対立や政府不信を煽る仕組みが成立している。
さらに、偽情報の拡散と並行して、中国は台湾に対する「グレーゾーン」戦術(※)を強化していると指摘。
台湾周辺海域では、中国海警局の船舶が頻繁に進入し、領海侵犯に近い状況が常態化している。また、高度1万メートル級を飛行する気球が台湾上空で繰り返し目撃されており、軍の監視体制に大きな負荷を与えている。台湾軍はこれらの対応に追われ消耗しているという。
※グレーゾーン戦術:戦争と平時の間に位置づけられる非軍事的圧力手法。軍事衝突を避けつつ、相手国の主権や社会秩序を揺さぶる行動が含まれる。
今後の展望
AI技術の急速な発展とその低コスト化により、今後も類似の情報戦は各国で継続・拡大していくと予想される。とくに台湾のように地政学的に重要な地域では、中国に限らず複数の勢力が認知操作を試みる可能性が高い。
AIによる生成コンテンツは年々自然さを増しており、真偽の判別が一層困難になると考えられる。
そのため、台湾をはじめとする民主国家は、AIによる偽情報に対抗するための情報リテラシー教育や、AI生成コンテンツの識別技術の開発に注力せざるを得ない状況にある。
また、国際的な枠組みを通じた情報操作の規制や共有も不可欠であり、今後は多国間連携が進むことが期待される。
一方、中国側の「グレーゾーン」戦術は今後も継続される可能性が高い。軍事的衝突を避けつつ、台湾の防衛資源を削る狙いがあるため、台湾にとっては心理的・経済的な疲弊が懸念される。
ゆえに、単に防衛強化にとどまらず、社会全体で「情報の真偽を見抜く力」を高めていく必要があるだろう。
情報戦の最前線にあるのは、兵器ではなく市民の判断力であることを、今後ますます意識せざるを得ない時代に入ったと言える。