AIで有機結晶の発生力を大幅向上、実験効率は従来比73倍に 早稲田大学が革新研究を発表

2025年4月3日、日本の早稲田大学の研究チームは、機械学習を用いて光駆動有機結晶の機能を飛躍的に高めることに成功したと発表した。
従来の73倍のスピードで最適条件を探索でき、発生力は最大3.7倍を達成。
国内外で注目を集めている。
光駆動有機結晶の性能をAIで最適化
早稲田大学の研究グループは、光によって形を変える「光駆動有機結晶」の性能を、AI技術によって飛躍的に高めることに成功した。
カギとなったのは、「LASSO回帰」と「ベイズ最適化」という二つの異なる機械学習の手法である。
これらを組み合わせることで、材料の設計から実験条件の探索まで、従来のやり方では不可能なスピードと精度で進めることが可能になった。
まずLASSO回帰では、有機結晶の中で発生力に関わる重要な分子構造を選び出した。
数多くの分子の部品の中から、「発生力を高める性質を持つ構造」と「逆に性能を下げてしまう構造」とを自動的に見分けることができ、効率的な分子設計につながった。
水素結合のように分子同士がしっかりとつながる構造が良い結果をもたらす一方で、ベンゼン環やハロゲンといった要素は性能を妨げる傾向があることが明らかになった。
次にベイズ最適化という手法によって、どのような実験条件が最も高い発生力を生むのかを探る作業が行われた。
これは、AIが少ないデータから効率的に予測を立て、「次に試すべき条件」を自動的に提案してくれる仕組みである。
初期の10通りのデータをもとに、AIが合計110回の試行で最適解にたどり着き、最大37.0mNという高い発生力を記録。
従来の方法と比べて条件の探索速度は73倍にもなった。
設計と実験、両方のステップでAIを使い分けたアプローチは、材料開発における新しいモデルケースになると期待されている。
材料開発におけるAI活用の可能性
本研究は、AI技術を活用して材料科学に革新をもたらす可能性を実証した事例である。
光駆動有機結晶は、軽量かつ柔軟でありながら、光照射によって力を生み出せることから、医療用デバイス、ソフトロボット、光応答性センサーなど幅広い応用が期待されている。
従来、こうした素材の性能向上には長期間の手作業による試行錯誤が必要だったが、今回の研究では機械学習がその制約を大きく打破した。
一方で、AIによって「最適」とされた構造が、必ずしも実用面での安全性や安定性を担保するわけではない。
その点では、AIはあくまで探索のツールであり、今後も最終的な検証や実装は人間の判断に委ねられるべきだろう。
今後は、有機結晶に限らず、他の高分子材料や無機材料に対しても同様のアプローチが拡張可能と見られる。
早稲田大学では他素材分野などでもAIを活用した研究が進行中であり、材料科学におけるAI導入の波は、今後さらに加速すると考えられる。
参考:早稲田大学公式発表