ディープマインドCEOが人間と同等の人工知能の登場を予測 5~10年以内に実現か

グーグル傘下の人工知能(AI)企業ディープマインドの最高経営責任者(CEO)であるデミス・ハサビス氏は、2025年3月17日にロンドン本社で行ったメディア会見で、人間と同等の知能を持つ汎用人工知能(AGI)が「今後5~10年以内に登場するだろう」との見解を示した。
AGIの登場時期については、業界内でも意見が分かれており、ハサビス氏は慎重な立場を維持している。
AGIの定義と技術的課題
ハサビス氏は、AGI(※)を「人間ができるすべての複雑な能力を示せるシステム」と定義した。
現在のAI技術は特定の分野では卓越した能力を発揮するが、応用範囲が限定されているため、AGIとは呼べないと述べた。
例えば、画像認識や自然言語処理では目覚ましい進歩が見られるものの、現実世界の文脈を理解し、柔軟な対応を行うことは依然として難しい。
AGI実現に向けた課題として、ハサビス氏は以下の点を挙げた。
第一に、AIが自律的に学習し、意思決定を行う能力を向上させる必要がある。
現在のAIは膨大なデータをもとに学習するが、それらを統合し、状況に応じた適切な判断を下すことはまだ困難である。
第二に、物理的な環境との相互作用を理解し、適応する力が不可欠だ。
例えば、人間は経験から物理法則を直感的に理解するが、AIはそうした直感を持たないため、未知の環境では予測不能な行動をとる可能性がある。
※汎用人工知能(AGI):特定のタスクに限定されず、人間のように幅広い知的活動をこなすAIのこと。現行のAIは「特化型AI(Narrow AI)」と呼ばれ、特定の分野でのみ優れた性能を発揮するが、AGIはあらゆる分野で適応できることを目指す。
業界リーダー達の将来予想
AGIの登場時期については、技術界でも意見が分かれている。
ハサビス氏は「5~10年以内」と予測したが、他の業界リーダーたちの見解は異なる。
テスラのイーロン・マスク氏は「2026年までにAGIが可能になる」と主張し、オープンAIのサム・アルトマン氏も「比較的近い未来に開発される」と述べている。
こうした予測は、近年のAI技術の急速な進化を背景としているが、ハサビス氏はより慎重な立場を維持している。
ディープマインドは、AGIの基盤となる技術開発を加速させるため、複数のAIエージェントが協力・競争する環境を構築し、その中で学習を進める研究を推進している。
その一例が、戦略ゲーム「スタークラフト」を活用したAI訓練だ。
同ゲームは、長期的な計画と状況適応を要求するため、AIの意思決定能力を強化する実験環境として活用されている。
AGIが実現すれば、医療、科学研究、経済分析など多くの分野で飛躍的な進歩が期待される。
一方で、制御不能なリスクや倫理的課題も浮上するため、技術開発と同時に適切な規制や安全対策の議論も進める必要がある。
ハサビス氏の予測が現実となるかどうか、今後の動向が注目される。