『サピエンス全史』著者のハラリ氏、日本での初会見でAIに警鐘 「ボットやアルゴリズムが民主主義を崩壊させる」

世界的ベストセラー「サピエンス全史」の著者ユヴァル・ノア・ハラリ氏が、3月16日に慶應大学で記者会見を開き、新刊「NEXUS 情報の人類史」について語った。AIがもたらす民主主義への危機を強調し、透明性確保の必要性を訴えた。
AIが民主主義を脅かす
ハラリ氏の新著『NEXUS 情報の人類史』は、人類が構築してきた情報ネットワークの歴史を包括的に分析し、AI革命がもたらす社会変革について論じている。石器時代から現代のAI時代まで、情報がどのように人間社会を形作ってきたかを俯瞰する内容だ。
書籍は、約5年の歳月をかけて執筆された。AIの急速な発展にともない、本が出版される頃には情報が古くなってしまうため、最新の事柄は書かないようにしたという。
会見でハラリ氏が特に強調したのは、AIの発展が民主主義の根幹を揺るがす可能性についてである。民主主義は本質的に人間同士の会話に基づいており、AIが人間のように振る舞うことで、その土台が脅かされる恐れがあると指摘する。
ハラリ氏は、AIによって生成された「フェイクヒューマン」を禁止し、AIがAIであることを明示する法律の整備を提唱した。ユーザーは相手が人間なのかボットなのかを知る必要があるからだ。
表現の自由については、「ボットやアルゴリズムにはそんな権利(表現や言論の自由)はない」として、規制を重視すべきとの姿勢を明確にした。
アルゴリズムの危険性を強調
会見でハラリ氏が特に強調したのが、アルゴリズムの危険性である。SNSで、ユーザーの好みに合わせてどんどんニュースが流れてくることに触れ、「アルゴリズムがどのコンテンツを優先的に表示し、それをどう決めているのか私たちにはよく分からない」と指摘した。
ハラリ氏は、これまでの新聞やテレビ局などのメディアにおいては、どのニュースを選択するかは人間が決めており、責任の所在がはっきりしているとした。一方のアルゴリズムは、責任を取らないし透明性も持ち合わせていないとして、そのあり方を対比させたのである。
ハラリ氏はアルゴリズムについて、「私たちが直面している大きな課題で、民主主義やどんな社会にとっても非常に危険なことだ」と言い、規制を進めるよう提言した。
「ソーシャルメディアの問題は、人間がウソを生むからではない。人間はもう何千年も前からウソをついてきた。問題なのは、アルゴリズムによって意図的にウソやヘイトスピーチが拡散されてしまうことだ」
AIへの規制の在り方は各国で議論が進んでおり、先日3月11日は、スペインでAIによって生成されたコンテンツに適切な表示を義務付ける法案が承認された。ハラリ氏が主張するような表示義務の法制化であり、このような法整備の可能性は、実現不可能なものではない。
各国で生成AIのポテンシャルと危険性に対する議論を深め、適切な対応を取ることが今後期待される。