地球のGPS信号、月面での捕捉に成功 月周辺での自律システム構築への一歩

米国の月着陸船「Blue Ghost」に搭載された「LuGRE」が、地球のGPS信号を月面で初めて捕捉することに成功した。この成果はNASAとイタリア宇宙機関(ASI)の共同プロジェクトによるもので、2025年3月4日に発表された。
地球から約36万キロ離れた月面でのGPS信号捕捉は、将来の月や火星探査に向けた自律航法システム開発の重要な第一歩となる。
月面ナビゲーションの新時代を切り拓く実験
LuGRE(Lunar GNSS Receiver Experiment)は、地球を周回する全球測位衛星システム(GNSS)(※)の信号を月での測位、航法、タイミング(PNT)に活用できるかを実証する目的で開発された。
Blue Ghostは2025年1月15日に打ち上げられ、3月2日に月面に着陸した。LuGREは着陸直後から運用を開始し、わずか1日後の3月3日には地球から約36万2100km離れた月面で信号捕捉に成功したと報告されている。
NASAによれば、この成果は宇宙船が地球上のオペレーターに依存せず、自律的に位置や速度、時間を正確に判断するための基盤技術になる可能性があるという。
この実験では、米国のGPSだけでなく、欧州のGalileo衛星からの信号も捕捉対象となっており、国際的な協力のもとで進められている点も注目に値する。
※全球測位衛星システム(GNSS)
GPS(米国)、GLONASS(ロシア)、Galileo(欧州)、北斗(中国)など、地球を周回する衛星を使った測位システムの総称。
将来の宇宙探査に不可欠な技術基盤
この技術実証の成功は、NASAの国際的な月探査計画「Artemis」をはじめとする将来の宇宙ミッションに大きな影響を与えるとされる。
従来、月や火星といった遠距離での宇宙船の位置決定は、地上からの通信と計測に頼らざるを得なかった。月の周りに衛星を打ち上げる構想もあるが、コストの高さが問題点となっている。
しかし、GNSS信号を直接受信できれば、地球を周回する衛星から位置情報を得ることができるため、宇宙船はこれまでよりも自律的にナビゲーションを行うことが可能になる。
今回の成功について、NASAの研究者たちは、「地球周回のGNSS衛星が本来想定されていなかった遠距離でも利用可能であることが証明された」と述べている。
これにより、将来の月面基地建設や月面探査車の運用において、より精密で効率的な測位システムを構築できると見込まれている。
また、火星探査においても同様の技術が応用される可能性があり、惑星間探査の新たな可能性を切り拓くものと評価できる。
GNSS信号を利用できることは証明されたものの、一般的に衛星配置は分散していたほうが制度が高い。そのため、月と地球の距離で十分な精度が得られるかどうかは、今後の課題である。
とはいえ、このLuGREの成功は、人類の宇宙進出における技術的障壁を一つ取り除いた重要なステップと言えるだろう。