ハードウェアウォレットの最新動向を把握して暗号資産を守る
2022年11月に起きたFTXの破綻をきっかけに、中央集権型暗号資産取引所(CEX)というカテゴリ全般に対する安全性における懸念が膨らみ始めました。
それまで、多くの資産を保有する一部のユーザー、あるいはセキュリティ意識が特に高いユーザー間で話題になることが多かったハードウェアウォレットですが、本件をきっかけにCEXを利用する一般ユーザーにさえも話題に挙げられるほど認知を獲得しました。
今回は、世間的にも一層の注目を浴びるようになったハードウェアウォレットにおいて、直近の資金調達を実施したプロジェクトを紹介しつつ、ハードウェアウォレットがある種のモバイル端末化し始めている動向についてご紹介します。
ハードウェアウォレットとは
そもそもハードウェアウォレットとは、インターネットに接続されたスマートフォンやPCといったデバイス、サーバーから隔離して「秘密鍵」を補完する物理的な用具を指します。
広義には、紙やアルミ板等の物体も含みますが、一般的には専用に製作された電子機器を意味します。コールドウォレットとも呼ばれ、インターネットを通じた攻撃を遮断する目的で取引所でも広く利用されています。
直近で調達したハードウェアウォレットのプロダクト紹介
FOUNDATION
調達日:2022年12月19日
調達額:$7M
ラウンド:シード
リード:Polychain Capital
公式サイト:https://foundationdevices.com
FOUNDATIONが提供する「Passport」は、旧式のモバイル端末を彷彿させるデザインで、主にQRコードを利用したモバイルファーストな製品を目指しています。
Passportには、USBデータ通信やBluetooth、WiFiといった直接的な無線通信機能が一切搭載されていません。実際の取引には、「ENVOY」というスマートフォン用アプリを利用してトランザクションを呼び出し、Passportの画面に表示される動的なQRコードをENVOY側で読み取ることで署名しています。
旧式のガラケーに見えるため、通話機能やデータ通信ができるように思いますが無線通信機能が一切搭載されていません。さらに、端末についているUSB-Cは充電専用の端子であるため、秘密鍵が端末外に流出する可能性を徹底的に排除しています。
*現状はビットコインのみの対応
Cypherock
調達日:2022年12月22日
調達額:$1M
ラウンド:シード
リード:不明
公式サイト:https://www.cypherock.com
Cypherockは、ウォレットのシードフレーズを管理する際の課題を解決しようとするプロダクトです。普段ウォレットを管理するとき、私たちは紙にシードフレーズを一つずつ書き写し、金庫や財布にしまっていることと思います(あるいは、石を掘ったり鉄板を掘っている人もいるでしょう)。
しかし、いくら大切に保存しても財布ごと無くしたり金庫ごと火事で焼けてしまう可能性はゼロではありません。Cypherockは、このようなシードフレーズ管理のあり方を”分散”させることで解決します。
当ハードウェアウォレットは、4枚のNFCカードと1つのウォレット本体で構成されています。4枚のNFCカードには、それぞれシャミアの秘密分散法によって分割された秘密情報が保存されています。
それによって、少なくとも2枚のNFCカードをウォレット本体にタップすることでシードフレーズを復元することができる仕組みになっています。
シードフレーズを4つに分割して管理・復元できるため、自宅にNFCカード1枚と本体を保管し、その他のカードを会社や学校、さらに言えば各国の預かり金庫に保管することでより安全に資産を管理できます。
また、Cypherockは「相続」に関する計画も実施しています。ウォレットを所有しているユーザーが亡くなってしまった場合、指定したアドレスに当ウォレット内の資産を全てトランスファーする機能を検討しているようです。
死亡したという判定をどのようにVerifyするかについては詳細を待つ必要がありますが、少なくとも、生前は第三者にシードフレーズを知らせることなくトラストレスに資産を管理し、亡くなった場合には所定のアドレスに資産を移すことができれば、相続の実務的な手法として現実味を帯びていくと考えられます。
以降は、資金調達をしたわけではないが本テーマに関連しそうなプロダクトも紹介します。
モバイル化を示唆する最新のハードウェアウォレット
Ledger Stax
Ledger Staxは、Ledgerが新たに発表したe-inkの曲面タッチスクリーンを持つハードウェアウォレットです。
これまで、Ledger Nano XやLedger Nano S Plus、別メーカーではSafePalもスクリーンを搭載していましたが、今回のLedger Staxは、3.7インチのE Ink®タッチスクリーンを搭載している点が特異でした。
Web3 GamerであるBrycentが、当デバイス発表当日の映像をTwitterでシェアしています。
大きめなディスプレイを備えたStaxは、ウォレットが保有しているNFTを表示させることができます。
E-inkであるため表示は16階調のグレースケールに限定されますが、これまでクリプト要素が強かったハードウェアウォレットでNFTを表示できるようになった点は事例として面白いと感じますし、どう転ぶか不明ですがある種のカジュアルユースにも展開されるポテンシャルを持っていると考えています。
Saga(web3スマホ)
ハードウェアウォレットから離れてしまうようですが、Solanaが2022年6月に発表したWeb3スマホ「Saga」も取り上げさせてください。
Sagaは、Androidをベースとしたスマートフォンであり、Seed Vaultを利用して秘密鍵をウォレット、アプリ、さらにはAndroid OSそのものから隔離して保管するハードウェアウォレットです。
これまで紹介していたハードウェアウォレットと違い、Sagaは外部との直接的な通信機能を有しており、自宅や金庫で保管するというよりも普段使いを狙ったウォレットである点が大きく異なります。
Solanaの共同設立者アナトリー・ヤコヴェンコ(Anatoly Yakovenko)氏によるコメント:
「開発者はあまりにも長い間、既存のゲートキーパーモデルが機能しないために、真に分散化されたモバイルアプリの作成を阻まれてきました。私たちはモバイルデバイスを使い生活していますが、web3領域においては秘密鍵管理に対するモバイル中心のアプローチがありません。Solana Mobile Stackは、オープンソースで安全、かつweb3に最適化され、使いやすいSolanaの新しい道を示しています」
あたらしい経済による、【取材】ソラナ(SOL)、web3スマホ「Saga」来年発売へ から引用
ヤコヴェンコのコメントで触れられているように、現在スマートフォン上のエコシステムでは既存のアプリゲートキーパーが、分散化されたモバイルアプリの流通に消極的であるために、デスクトップ上での展開に限定される現在のdApps市場には限界があります。
ソラナは、そのようなdApps市場の構造上の課題を解決するために自らモバイル事業への参入を決意し、スマートフォンとハードウェアウォレットの掛け合わせを行なっています。
終わりに
FoundationのPassportやCypherock、Ledger Staxが、インターネットから隔離したハードウェア上での秘密鍵管理を担うプロダクトである一方、Sagaはマスアダプションを狙っていく上で重要となる「ウォレットの操作・管理」の課題に対して、非クリプトユーザーにとっても馴染みやすいソリューションとして成立する可能性を感じます。
そういった意味で、ハードウェアウォレット領域は
- セキュリティをより強固にしたハードウェアウォレット
- カジュアルなユースケースを狙ったハードウェアウォレット
のようにコンセプトが大きく2つに分岐し始めているように感じます。
ハードウェアウォレットは、基本的に自宅ないし金庫等に保管しておくことがこれまでの利用実態であるため、後者のようなコンセプトで持ち歩くような使い方が果たして現実的かどうかという議論も含めて今後の動向から目を離せません。
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参考文献
本記事に使用した文献は以下になります。