タイ、AI国産化の動き　タクシン氏一族がエヌビディアと提携

2025年2月19日、タイのタクシン元首相の親族が経営する企業が、米国の半導体大手エヌビディアと提携し、約6100億円を投じて大規模なAIデータセンターの整備を進めていると報じられた。この動きは、米国のテクノロジー企業への依存から脱却し、自国のデータとインフラを活用した「ソブリンAI（※）」の開発を目指すものである。

AI国産化の狙いと背景

タイ政府と民間企業は、米国のIT企業に対する依存度を下げるべく、AI技術の国産化を目指している。その中心となるのが、タクシン元首相の一族が経営する企業とエヌビディアの提携だ。この協力により、タイ国内でのAI研究と開発を加速させ、技術の自立を図る。

タイはこれまで、米国のテクノロジー企業が提供するクラウドサービスやAI技術に頼ってきた。しかし、近年の地政学的リスクや経済的要因を背景に、自国のデータとインフラを活用した「ソブリンAI」の開発が急務とされている。今回の提携はその一環であり、国家レベルでの技術的独立を強化する狙いがある。

また、タイはASEAN諸国の中でもデジタル経済の成長を重要視しており、政府主導のデジタル化政策が進められている。AI技術の確立は、産業競争力の強化や経済発展の推進において不可欠である。エヌビディアとの協力は、こうした戦略の中核をなすものだ。

AIデータセンターの建設と今後の展望

提携の具体的な成果の一つとして、約6100億円を投じたAIデータセンターの建設計画が進行している。この施設は、タイ国内の企業や研究機関がAIモデルを開発・運用するための基盤となり、国内外の技術者に向けたトレーニングや実験の場としても機能する見通しだ。

このデータセンターは、AI技術の研究開発のみならず、エネルギー効率の高い運用を可能にする設計が採用されるとされる。また、タイ国内の産業や行政機関向けにカスタマイズされたAIソリューションの開発が期待されている。特に、農業、医療、金融などの分野での応用が進められる予定だ。

一方で、この取り組みが米国企業との関係に与える影響も注視されている。タイはこれまで、グローバルなテクノロジー企業との協力を通じてデジタルインフラを整備してきたため、AI国産化の推進が既存の経済関係にどのような変化をもたらすのかは不透明な部分もある。

それでも、タイ政府と企業は、自国の技術力向上を最優先課題として取り組んでいる。AIデータセンターの完成は、その象徴的な一歩となるだろう。

※ソブリンAI：国家が自国のデータと技術を活用し、他国の企業や政府の影響を受けずに運用・管理できる人工知能技術のこと。データ主権を確保し、安全保障や経済政策の観点からも重要視される。