マイクロソフト、マレーシア西部でAI対応クラウド提供開始 産業革新を加速

米マイクロソフトは2025年5月28日、マレーシア西部リージョンでクラウドサービスの提供開始を発表した。現地初のAI対応インフラで、同国のデジタル経済発展を強力に後押しする動きである。
マレーシア初のAIクラウド基盤が始動、経済成長を後押し
マイクロソフトはマレーシア西部リージョンで、自社のクラウドサービス「アジュール」や「マイクロソフト365」の提供を始めた。このリージョンはAI対応のハイパースケールクラウドインフラ(※)で、膨大なデータ処理能力を有し、今後は多様なビジネスアプリケーションも展開予定である。
主要パートナーには国営石油企業ペトロナスが名を連ね、フィンテック大手のTnGデジタルやアウトソーシング企業サイコム(MSC)、標準工業研究所SIRIMなどが顧客として参入している。
マレーシア政府のデジタル相ゴビンド・シンデオ氏は「最新のデジタル技術とAI技術を活用してバリューチェーンを高度化できる」とコメントした。
米調査会社IDCは、同リージョンが今後4年間で109億ドル(約1兆5900億円)の新規収益を生み出すと予測している。
そのうち約16.9%をマレーシア西部リージョンが占め、直接・間接で3万7000人以上の雇用が創出される見通しである。特に高度IT人材は約6000人増加する見込みだ。
加えて、マイクロソフトは「ビナAIマレーシア」というAI推進イニシアチブを発表し、AI人材育成や全産業へのAI導入支援を掲げている。
「マイクロソフト国家AIイノベーションセンター」の設立も進め、英国EYや国家人工知能局、ペトロナスの協力でマレーシアのAIトランスフォーメーションを加速させる。
AI活用で進むデジタル変革、ビジネスの可能性と課題
マイクロソフトによるマレーシアでのAI対応クラウド基盤は、同国のデジタル変革を強力に後押しするものと考えられる。まず、AIの活用により業務効率が大幅に向上し、リアルタイム分析やプロセスの自動化を通じて産業全体の競争力が高まるだろう。
また、中小企業にもAI技術の活用機会が広がり、新たな市場が生まれる可能性がある。高度IT人材の育成が進めば、マレーシア国内でのイノベーションと経済の自立性が一層強化されると期待される。
一方で、課題も存在する。AI活用には大量のデータが不可欠であり、データプライバシーや情報セキュリティに関する法整備が追いつかなければリスクが増大する。
さらに、AI偏重による雇用構造の変化が、中長期的に労働市場に不均衡を生む可能性もある。
今後は、企業がAIを単なる効率化手段にとどめず、新たな価値創出の手段として活用できるかが鍵を握る。国と企業が一体となり、AI倫理やガバナンスを含めた持続可能な成長戦略を描けるかが注目される局面である。
※ハイパースケール・クラウドインフラ:大規模なデータセンター群を統合的に運用し、膨大な計算・ストレージ・ネットワーク資源を提供するクラウド基盤。通常、AIやビッグデータの処理に特化している。