ウォール街の老舗キャンター、ビットコイン担保融資を本格始動 デジタル資産金融の新局面へ

2025年5月27日、米ウォール街の大手投資銀行キャンターフィッツジェラルドは、ビットコインを担保とした初の融資取引を実行したと発表した。伝統金融と暗号資産が交差する新たな一歩となる。
20億ドルの融資プログラムが始動、ビットコインを担保に
キャンターフィッツジェラルド(以下、キャンター)は、ビットコインを担保とした新たな融資事業の第一弾として、米暗号資産レンディング企業メープル・ファイナンスおよびデジタル資産プライムブローカーのファルコンXへの資金供給を実行した。
両社はそれぞれ、18億ドル超の資産を保有するなど、暗号資産市場において一定の影響力を持つ企業である。
この融資は、キャンターが推進する20億ドル規模のプログラムの一部であり、暗号資産を保有する機関投資家に対して新たな流動性オプションを提供することを目的としている。
同社は2024年7月時点でこの構想を公表しており、約1年を経て初取引にこぎつけた形だ。
同社の共同CEOであり債券部門グローバル責任者のクリスチャン・ウォール氏は、「ビットコインを保有する機関投資家は、多様な資金調達源へのアクセスを拡大することを求めており、我々は彼らの流動性ニーズをサポートすることで、長期的な成長と成功を支援できることを嬉しく思う」と述べている。
さらにキャンターは、時価総額1420億ドルのUSDTステーブルコイン(※)を発行するテザー社が保有する米国債の管理業務も手掛けており、暗号資産分野への関与を深めている。
今後の展望、伝統金融×暗号資産の融合に期待
今回のキャンターによるビットコイン担保融資の実行は、デジタル資産と伝統的金融の境界が曖昧になりつつある現状を象徴しているといえる。
金融機関が暗号資産を資産クラスの一部として正式に扱えば、機関投資家の信頼性向上にも寄与するだろう。
一方で、暗号資産は価格変動が激しいため、担保としての価値が急変するリスクも内包している。
これに対応するため、融資側である金融機関には、貸倒れ防止のためのリスク管理体制の高度化が求められることになると思われる。
特に、清算プロセスや担保評価の基準は未整備な部分も多いため、制度設計面での課題は残るだろう。
とはいえ、暗号資産を保有する企業にとっては、従来の株式や不動産に依存しない新たな資金調達手段としての可能性が広がることとなる。加えて、ブロックチェーンベースのトレーサビリティにより、透明性の高い取引が期待できる点も注目できる。
現在、米商務長官を務めるキャンター前CEOのハワード・ルトニック氏も、ビットコインを伝統金融に統合すべきとの立場を公にしており、今後も政策的な後押しが継続される可能性がある。
制度と市場の整備が進めば、同様の金融商品が他の金融機関でも展開されることも予想できる。
伝統金融×暗号資産の展開に、今後も注視したい。
※USDTステーブルコイン:米ドルに価値が連動するよう設計された暗号資産。1USDT≒1米ドルで取引されることを目的としており、価格の安定性を特徴とする。