韓国最高裁、AIで判決支援へ 145億ウォン投じ司法システムを刷新

2025年5月26日、韓国の調達庁が司法分野に人工知能(AI)を導入する大型事業の入札公告を発表した。大法院(最高裁)は膨大な判例データを活用し、AIが裁判業務を支援する新たなプラットフォームの構築を進める。
韓国、AI活用で判例推薦・要約を自動化する事業始動
韓国大法院は裁判業務の効率化を目指し、AI技術を本格導入する計画を推進している。今回、調達庁が公示した入札公告は「裁判業務支援のためのAIプラットフォーム構築およびモデル開発事業」に関するもので、総額は145億100万ウォンに上る。
事業の中核は、大法院が保有する判決文や訴訟記録といった司法データをもとに、AIによる自動分類や要約、類似判例の推薦を行う仕組みの開発だ。
自然言語処理(NLP)技術や知識グラフを用いた検索システム、争点に基づくマッチングアルゴリズムなどが統合される。
さらに、データハブの設計、非識別化・ラベリング、MLOps(機械学習運用※)の導入、利用者に応じたインターフェース(UI)の設計までが含まれている。
単なる試験ではなく、実用化を前提とした包括的なシステムの構築を目指していることが窺える。
事業は2025年から5年間、段階的に年次契約形式で進められる。
初年度は約38億ウォンが投入され、2年目が50億ウォン、3年目が46億ウォン、4・5年目は各5億ウォンが設定されている。
また、入札に際しては「虚偽情報や他社中傷の禁止」が明記されており、違反時には減点や無効となる可能性がある。
AI判決支援が変える司法の未来 効率化の利点と公平性の課題
AI導入によって期待される最大のメリットは、裁判業務の迅速化と精度向上だろう。
類似判例の自動推薦や法律文書の要約が実現すれば、裁判官や書記官の負担が軽減され、処理速度が大幅に上がる可能性がある。
特に、訴訟件数の多い大法院では、人的資源の最適化につながるだろう。
長期的には、AIを用いた司法支援システムの国際的な先行事例となることも期待されている。日本や欧州など他の先進国でも、類似の取り組みが模索されているなかで、韓国モデルが一つのリファレンスとして機能する可能性も十分にあると考えられる。
一方で、AIが導き出す結果が必ずしも法的・倫理的に妥当とは限らない点は慎重に扱う必要があるだろう。また、アルゴリズムの透明性や説明責任を確保しなければ、判断理由が不明瞭となり、司法の透明性を損なうおそれがある。
さらに、学習データにバイアスが含まれていれば、公平性に偏りが生じるリスクも残る。
裁判行政処は、「公正性と技術力中心の評価体制を導入することで、形式よりも実質的な能力を備えた企業に落札の機会を提供したい」と述べている。
今後の事業の成否は、技術と司法の橋渡し役となる設計思想と実装力にかかっていると言えそうだ。
※MLOps:機械学習モデルの開発から運用までを一貫して管理する手法。持続的な性能維持と改善を目的とする。