東映アニメ、AIで制作工程を効率化 「プリキュア」などで実証進むが海外では懸念の声も

2025年5月16日、東映アニメーションは2024年3月期の決算資料で、アニメ制作工程にAIを導入する取り組みを明らかにした。
「プリキュア」を例に、絵コンテや背景制作など複数の工程でのAI活用を示し、制作の効率化と質の両立を目指す。
一方、海外では懸念も広がっているようだ。
「プリキュア」でAI活用 東映アニメが工程別に実例提示
東映アニメーションは、アニメ制作におけるAI技術の導入計画を自社の決算資料にて公開した。具体的には、絵コンテや色指定、動画、背景など、制作工程の各所でAIを活用する方針を示している。
絵コンテ工程では「簡易LO(レイアウト)生成」や「コンテ撮素材の自動生成」、色指定工程では「AIによる色指定補助」や「セル画の色ミス自動修正」が挙げられた。
動画工程では「線の自動補正」や「中割の自動生成」、背景では「写真をもとにした背景生成」が提示され、AI技術の導入がすでに一部実用段階にあることがわかる。
この背景には、AI技術に強みを持つ企業・プリファードネットワークス(PFN)との提携がある。
同社は2021年時点から、写真をアニメ背景に変換する技術を開発しており、長崎県佐世保市を舞台にした短編「URVAN」にも試験導入している。
自動着色AIの学習素材提供を通じて、従来比で色彩工程の制作時間を10分の1に、また、コストも半減する効果が示されていた。
創造性と効率化の両立に課題 海外ではAI導入に賛否
AI技術の導入は制作現場の効率化に貢献すると期待される一方、クリエイターの創造性とのバランスに対する懸念も根強い。
特に東映アニメーションは「プリキュア」のほか、「ドラゴンボール」や「ワンピース」など世界的作品を抱えるだけに、その動向は国内外で注目を集めている。
海外のSNSでは、今回の取り組みに対して「アニメーターの仕事を奪うのでは」といった否定的な意見が多く見られた。ある投稿には1万件以上の「いいね」と800件のリポストが付いたが、引用リポストは3000件超にのぼり、多くが懐疑的な内容だった。
こうした反応を受け、東映アニメーションはPFNとの共同資料内で「あくまでAIはスタッフの支援役である」と強調している。
国内からは「クリエイターの創造性を損なわずに単純作業を効率化できれば、作品の質向上につながる」との肯定的な見方もある。
今後は他の制作会社でも同様の導入が進むと考えられるが、同時に「人間による演出の繊細さ」と「AIの処理精度」とのバランスが常に問われることになるだろう。
海外での批判的な意見に見られるように、クリエイティブ職の職域侵食に対する懸念は根強い。こうした声に配慮しつつ、AIを補助的存在として位置づけた透明な活用方針の共有が、国際的な理解を得る鍵になると見られる。
将来的には、AI活用の是非ではなく、いかに「共創」していくかという視点が、重要になっていくのではないだろうか。