出光興産が生成AIを先進マテリアル部門に導入　RAG活用でレポート作成と技術対応を革新

2025年5月15日、日本の総合エネルギー企業である出光興産が、先進マテリアル部門に生成AIを導入したと発表した。検索拡張生成（RAG）を中核技術とし、分析レポート作成と技術サポートの業務効率を大幅に向上させている。

出光興産、競争力強化へ生成AIを本格導入　RAG技術で膨大なデータを武器に

出光興産は、燃料油から高機能材、再生可能エネルギーまで幅広い領域を手がける総合エネルギー企業である。
同社は現在、データ活用による業務効率化と技術的優位の獲得を目的として、先進マテリアル部門に生成AIを導入している。導入にあたっては、システム開発を手掛けるウルシステムズと共同で構築したAIアプリケーション基盤を活用している。

出光興産では、検索拡張生成（RAG）（※）技術を「競合製品の分析レポート作成」と「技術サポート業務」に適用している。

分析レポートでは、特許データベースやインターネットから収集した情報をもとに新素材の優位性を評価し、報告するプロセスを高速化した。
加えて、技術サポートでは、顧客からの製品不具合に関する問い合わせに対し、過去の対応履歴やクラウド上の資料を即座に検索し、根本原因の特定や類似事例の抽出を自動化している。

このような運用を可能にしたのは、Microsoft Azureのクラウドサービス、特に「Azure OpenAI Service」と、オープンソースのAIツール「Dify」（※）を組み合わせた柔軟なプラットフォームにある。
これらに企業固有のナレッジベースを統合することで、短期間で現場業務に適したアプリケーション開発が実現された。

※検索拡張生成（RAG）：Retrieval-Augmented Generationの略。外部データベースから情報を検索し、その情報をもとに生成AIが回答を生成する技術であり、情報の正確性と信頼性を高める手法。

※Dify：オープンソースの生成AIアプリ開発ツールで、企業独自のデータをもとにAIチャットボットやレポート生成ツールなどを構築できる。非エンジニアでも扱いやすいユーザーインターフェースが特徴。

AI活用による展望、創造的業務の自動化と競争力の飛躍的向上

今回の生成AI導入は、単なる業務の高速化にとどまらず、出光興産の今後の事業戦略とも密接に結びついていると思われる。

同社はこれまで蓄積してきた知見やノウハウをAIに活用させることで、これまで属人化していた知的業務の標準化を進めている。
具体的には、潜在市場の兆候を捉えるためのトレンド分析や、知財関連文書のレビュー、リスク管理に関わる情報抽出といった、より創造的かつ戦略的な領域にも応用が始まっているという。

出光興産のアプローチは、製造業全体にも波及する可能性がある。
特に、膨大な非構造データを保有しながらも十分に活用できていない企業にとっては、同社の取り組みが有効なモデルケースとなるだろう。

RAGを軸とした生成AI導入は、汎用モデルでは対応が難しかった専門性の高い業務にこそ効果を発揮する点で、企業ごとの業務特化型AIの可能性を拡げている。

生成AIは、いまや単なる補助ツールから、意思決定や価値創出を支援するパートナーへと進化を遂げつつある。

出光興産のように、企業の中核業務に深く組み込む事例は、国内製造業におけるAI実装の次なるステージを象徴しているのではないだろうか。