NTT、空中に「触れる感覚」を実現する超音波技術を発表 デバイス不要でXRのリアル体験を革新へ

2025年5月13日、NTT(日本電信電話株式会社)は東京大学との共同研究によって、物理的な器具を一切装着せずに空中で触覚を再現する「超音波触感シンセサイザ」を開発したと発表した。
「触れずに触れる」体験を実現した超音波技術の革新性とは
NTTコミュニケーション科学基礎研究所と東京大学の共同研究チームが開発した「超音波触感シンセサイザ」は、皮膚に触れることなく、空中に“触れた感覚”を生じさせる新たな技術だ。最大の特徴は、従来必要だった大型デバイスや装着機器を一切使用せず、超音波のみで触覚を再現する点にある。
この技術は、超音波を皮膚の一点に集中的に照射することで、非接触ながらも物理的な刺激として“力”を感じさせる構造を持つ。
特に、焦点を5Hzの周波数で回転させることで、感じられる力が従来の約20倍(通常0.01N→最大0.2N)に増加するという。これは、超音波が皮膚に与える物理的刺激に対して、人間の感覚器が特定の振動パターンに敏感であることを示す成果である。
加えてこのシンセサイザは、5Hz、30Hz、200Hzという異なる周波数を合成することで、多様な触覚を生み出せる。つるつる、ざらざら、さらさらといったテクスチャをリアルに模倣することが可能となり、仮想空間での操作体験に奥行きとリアリティをもたらす。
2024年には「Eurohaptics conference」でこの研究成果が展示され、Best Paper AwardやBest Demonstration Awardのノミネート対象となった。2025年5月20日から開催される「コミュニケーション科学基礎研究所オープンハウス2025」でも、体験展示として公開が予定されている。
ビジネスやエンタメに広がる可能性、触覚技術がもたらす次の潮流
この技術の応用範囲は、エンタメ分野をはじめ、医療訓練、遠隔操作、eコマースの試用体験など多岐にわたる。
たとえば、オンラインショッピングにおいて商品の手触りを仮想的に確認する、あるいは遠隔地の作業員が手袋なしで機械操作の“感覚”を得るといった活用が現実味を帯びてきた。
XR市場ではこれまで視覚と聴覚の再現が先行してきたが、触覚という“第3の感覚”の獲得は、完全没入型インターフェースの実現に向けた大きな一歩となる。
とりわけ、非接触であることは衛生面や装着負荷の低減といった観点からも、商用化において極めて重要な利点だ。
NTTは今後、触覚インターフェースの精度向上と、触覚コンテンツの開発に注力する方針を示している。将来的には、感情や痛覚までも含めた“感覚のインターネット”を実現する研究が進められる可能性もある。
触れることのできない情報に、物理的な実感を与えるという挑戦は、デジタル時代のインタラクションを再定義する起点となりそうだ。