エクイニクス、水冷式データセンターで生成AI時代を支える構え

2025年5月12日、エクイニクス・ジャパンが記者会見を開き、水冷式データセンターへの本格対応を強化していることを明らかにした。冷却効率と環境配慮を両立する水冷技術は、生成AIやハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)の需要拡大を背景に、今後の中核インフラとなる可能性が高いとみられる。
生成AIの進化とともに注目高まる水冷式
エクイニクスは、35カ国に270以上のデータセンターを展開するグローバル企業である。
今回、日本で行われた記者会見にて、同社xScale事業のマネージングディレクター、ティファニー・オサイアス氏が水冷式冷却技術(※1)の意義を語った。
生成AIやHPCの普及が進む中、従来の空冷式では冷却能力に限界があるとの認識が広がっている。
オサイアス氏は「冷たい水で冷やす方が効率的」であり、「水冷式が空冷に比べて約3000倍の熱除去効率を持つ」と述べた。
現在の主流は、サーバーのCPUやGPUに直接冷却液を循環させる「ダイレクトチップ直冷式」である。他にも、キャビネット背面で熱を処理する「リアドア型熱交換器」、サーバー全体を液体に沈める「液浸冷却」が存在する。
これらはそれぞれ異なる物理構造と導入コストを持ち、処理密度や設置条件に応じて選択されている。
水冷式の導入は経済的な側面にも影響を与えると考えられる。データセンターにおいて冷却電力は総消費電力の約3割を占めており、ファンを使わない水冷式は電力コストの大幅な削減が見込まれる。
また、物理スペースの縮小により、施設建設費や輸送効率にも好影響をもたらすと考えられる。
サステナブルインフラとしての可能性 今後の課題と展望
エクイニクスの水冷式データセンターは、冷却後に発生する排熱の再利用にも積極的に取り組んでいる。
フィンランド・ヘルシンキでは住宅や企業の暖房に、オランダ・アムステルダム大学では構内施設の熱源として排熱が利用されており、エネルギーの地産地消モデルを提示している。
こうした環境配慮型の運用は、同社が掲げる「2030年までに100%再生可能エネルギー使用」目標の一環として位置づけられている。
再生可能エネルギー証明書(※2)や電力購入契約(PPA)を活用するほか、データセンター内での自家発電にも力を入れており、環境負荷を最小化する方向で技術的対応が進んでいる。
加えて、エクイニクスはNVIDIAと連携し、DGXシステムを搭載したプライベートAI環境を提供。医療、物流、製造といった多様な業界での生成AI導入を支援している。
一方で、水冷インフラは空冷に比べて構造が複雑であり、冷却水の循環装置や配管システムなどにかかる初期投資が大きいと考えられる。また、水の供給が不安定な地域や厳冬期の凍結リスクがある地域では、地理的条件への適応も求められるだろう。
今後は、生成AIとHPCの運用ニーズに応じて、水冷式データセンターが標準インフラ化する可能性は高いと考えられる。
エネルギー効率と高密度処理性能を両立できるこの仕組みは、AI時代のインフラ戦略におけるひとつの指標となるだろう。
※1 水冷式冷却技術:液体を用いてサーバーから発生する熱を除去する方式。空気より熱伝導率が高いため、冷却効率が非常に高い。
※2 再生可能エネルギー証明書(REC):再エネ由来の電力を購入したことを証明する制度。企業のサステナビリティ評価で活用される。