那須赤十字病院、生成AIで「退院サマリー」作成を効率化 リコー提供の基盤で医師の業務負担を軽減

2025年4月30日、リコーは栃木県大田原市の那須赤十字病院に対し、オンプレミス環境で稼働する大規模言語モデル(LLM)を活用した「退院サマリー」作成支援システムを提供し、医師の業務負担を軽減していると発表した。
医師の文書作成業務をAIで効率化する取り組みが本格化している。
退院サマリー作成の効率化で、医師が本来の業務に集中できる環境を整備
医療現場では、診療記録や退院サマリーといった文書作成業務が医師の負担となっており、特に退院サマリーは他施設との情報連携に不可欠な文書である。
那須赤十字病院ではこの課題に対応すべく、リコーと連携し、生成AI技術を活用した文書作成支援プロジェクトを開始した。
導入されたのは、リコーが提供するオンプレミスのGPUサーバーと、同社が開発した700億パラメーター規模の大規模言語モデル(LLM)を組み合わせた自動要約システムである。
このシステムは、電子カルテと連携し、患者の入院中の情報から必要な要素を自動的に抽出・要約し、退院サマリーのドラフトを生成する。
医師は生成されたドラフトを確認・編集するだけで済むため、文書作成にかかる時間が大幅に短縮される。結果として、医師は診療や患者とのコミュニケーションにより多くの時間を割けるようになる見込みだ。
現在、このシステムは一部の医師による実務活用が始まっており、順次院内全体への展開が進められる予定である。
また、リコーは病院職員向けに、生成AIアプリ開発基盤「Dify」の操作教育も行っており、医療現場での実用性向上に貢献している。
那須赤十字病院の医療情報管理課・宮内昭広氏は、「今回、リコーの教育メニューによりDifyの使い方を習得することができた。これにより、病院の事務職員が自分たち自身で院内の電子カルテと連携させ、退院サマリー作成の業務改善が実現した。今後、この取り組みをさらに拡大し、次は外来サマリーへの展開を行っていく」と語る。
今後の展望
今回の取り組みは、単なる業務効率化にとどまらず、生成AIの現場適応における実証的なステップとも言える。
医療のような情報の正確性とプライバシーが求められる分野では、クラウドではなく自社内にサーバーやネットワーク機器、ソフトウェアなどのITインフラを設置し、運用・管理する形態であるオンプレミス環境での運用が必須となる。
リコーが提供したGPUサーバーとLLMは、その条件下で高性能な自然言語処理を実現しており、ほかの医療機関や公共機関への展開も視野に入る。
また、外来診療におけるサマリー作成にも同技術を応用することにより、診療現場におけるAI支援の幅がさらに広がる可能性がある。
生成AIが現場の人間と協調しながら活用されることで、医療の質向上と業務の変革が同時に進む構図が見え始めている。