トランプ政権、EUのAI規制に圧力 ルールブック撤回求め書簡送付

2025年4月28日、欧州委員会は、米トランプ政権がEUのAI規制に関するルールブック撤回を求める書簡を送付していたことを明らかにした。
規制強化に懸念を示す米国と、それを進めるEUの対立が国際的な注目を集めている。
AI規制巡る米欧の主導権争いが激化
EUは2024年、人工知能を包括的に規制する「AI法」(※1)を世界に先駆けて制定。生成AIを開発する企業に対し、学習に使用したデータの透明性確保やリスク軽減策の実施を義務づけるルールブック(実践規範 ※2)の策定を進めている。
このルールブックは、法的拘束力を持つAI法の運用ガイドラインに相当するものであり、2025年5月の完成を目指して加盟各国と調整中だ。
現在、欧州委員会は企業や技術者との対話を重ねながら、実効性のある規範づくりを進めていると説明している。
一方で、AIに関する規制緩和を目指すトランプ政権は、この動きを強く警戒している。
トランプ大統領は2025年2月、EUが米国のIT企業に対して制裁金を科せば、報復関税で対抗する姿勢を明確にした。
さらに、バンス副大統領も同月、「トランプ政権はAIシステムがイデオロギー的偏見から自由であると保証する。国民の言論の自由を決して制限しない」と述べ、EUのデジタル政策全般に反発を示した。
※1 AI法:
欧州連合(EU)が制定した、人工知能の利用に伴うリスクを管理するための初の包括的規制法。高リスクAIシステムには事前審査や透明性確保などの厳格な義務が課される。
※2 実践規範:
EUのAI法に基づいて策定されるガイドラインで、企業がAIシステムを適法に運用するための具体的な手続きや基準を定める。法的拘束力は持たないが、規制の適用において重要な役割を果たす。
AI開発の主導権はどこに向かうのか
今回の対立は、AIを巡る国際的な規制フレームワークの在り方を左右する可能性がある。
EUは、市民の権利保護と企業の説明責任を重視する姿勢を貫いており、AI法と実践規範によってグローバルな技術開発の道筋を描こうとしている。
一方のトランプ政権は、技術革新と企業競争力を阻害するとの立場から、EU主導の規制モデルに警戒を強めている。
トランプ政権の強硬な規制緩和の姿勢は、一部のAI企業には発展の契機になりうるが、国際的なガバナンスの分断を招くリスクは、今回改めて浮き彫りとなった。
特に、AIが社会に及ぼす影響が拡大する中で、共通のルール作りを巡る国際協調の難しさが明らかになった形だ。
今後、2025年5月中に予定されているルールブックの完成とその運用開始を前に、米国とEUの間でさらなる調整や外交的駆け引きが予想される。
AIの未来を形作るこの規制戦争は、技術そのものの方向性だけでなく、政治・経済の力学にも大きな影響を及ぼすことになるだろう。