AIが描く「合成記憶」　グーグルが認知症患者の記憶想起を支援する新プロジェクトを発表

米グーグルは2025年4月24日（現地時間）、認知症患者の記憶想起を支援する新たな研究プロジェクト「Synthetic Memories」を発表した。
AIとアートを融合し、失われつつある記憶を視覚的に再構築することで、患者のアイデンティティと過去とのつながりを取り戻す試みだ。

AIとアートの融合がもたらす新たな記憶再構築のアプローチ

認知症は世界中で数千万人に影響を及ぼし、記憶の喪失は患者の生活の質を著しく低下させる。

従来のレミニッセンスセラピー（回想療法）では、写真や音楽、思い出の品を用いて過去の記憶を呼び起こす手法が取られてきた。しかし、記録が乏しい記憶や曖昧な記憶に対しては限界があった。

グーグルが発表した「Synthetic Memories」プロジェクトでは、AIを活用して患者の記憶を視覚的に再構築する新たなアプローチを採用している。
患者の過去の経験や記憶を詳細に聞き取り、それをもとにAIが画像や動画を生成する。これにより、具体的な記録が存在しない記憶でも、視覚的な手がかりとして再現することが可能となる。

たとえば、研究に協力したエドワード氏は、若い頃にスペインでヒッチハイクをした記憶を持っていたが、写真などの記録は残っていなかった。
彼の記憶をもとにAIが生成した画像は、彼が着ていた革のジャケットや持っていたリュックサックなど、彼の記憶にもとづいた詳細が反映されていた。

このように、AIが生成する「合成記憶」は、患者の記憶を視覚的に補完し、記憶想起を支援する新たな手段となり得る。

「Synthetic Memories」プロジェクトは、グーグルのGoogle Arts & Culture、スペインのアート集団Domestic Data Streamers、カナダのAGE-WELL研究ネットワークのAlex Mihailidis教授らが共同で進めている。

AIによる認知症ケアの新たな可能性

「Synthetic Memories」の最大のメリットは、AI技術を活用することで、従来の回想療法では補えなかった記憶の“空白”に光を当てる点にある。特に、写真や物理的な記録が存在しない記憶に対して、AIが視覚的な手がかりを生成することにより、より深い記憶の掘り起こしや会話の促進が期待できる。
これは、認知症を持つ人々にとって、自身のアイデンティティや過去との結びつきを強める可能性を持つ。

一方で、「合成された記憶」が本物の記憶と混同されるリスクも考えられる。
認知症が進行している場合、AIが生成したイメージが“実際にあった出来事”として誤認される恐れがある。このような混同が、逆に混乱や不安を招く可能性も否定できない。

今後は、この技術はより広範な臨床現場や福祉施設での実証研究を通じて進化していく可能性がある。
AIによる画像生成技術の精度向上と、患者個人の履歴や好みに即した生成ロジックの高度化が進めば、より信頼性の高い記憶支援ツールとして普及すると考えられる。