三井住友海上とNEC、保険業務向け大規模言語モデルを開発 社内AI基盤で運用開始

2025年4月23日、三井住友海上火災保険とNECは、保険事業における照会応答業務に特化した大規模言語モデル(LLM)を共同開発したと発表した。このモデルは、三井住友海上の社内向け生成AI基盤「MS-Assistant」に組み込まれ、4月22日から運用を開始したという。
NECの生成AI技術を活用し、保険業務に特化したLLMを実現
今回開発された大規模言語モデルは、三井住友海上が社内向けに展開する生成AI基盤「MS-Assistant」の高度化を目的としている。
背景には、2023年10月より、損害保険の商品規定や事務手続きに関する社員からの照会にAIが自動で回答する機能が追加され、これをさらに精度向上させる必要があったことが挙げられる。
LLMの基盤には、NECが独自に開発した生成AI「cotomi」が採用されている。
cotomiは日本語処理に強みを持つ生成AIであり、保険業務の専門的な文脈を理解しやすい構造となっている。このcotomiをベースに開発されたLLMは、Microsoftのクラウドサービス「Azure OpenAI Service」と統合されており、高い計算性能とセキュリティ環境の中で動作する。
加えて、約12,000人の社員から日常業務で得られたフィードバックを活用し、ドキュメント検索や照会支援機能の改善に役立てているという。
AIによる回答精度の向上と、業務プロセスの効率化が同時に進められている点が特徴的だ。
ハルシネーションリスクへの対応、今後の展開
生成AIの活用が進む一方で、誤った内容を生成する「ハルシネーションリスク」への対策も重要視されている。
三井住友海上では、全社員に対してAIの適切な利用ルールを周知し、運用ガイドラインを整備することで、AIが出力する情報の信頼性を確保しようとしていると考えられる。
この取り組みにより、業務現場での安心感を高めつつ、AI技術の導入効果を最大限に引き出す姿勢がうかがえる。
今後は、保険約款やFAQデータのさらなる追加を進め、より幅広い業務領域にAIを適用する計画だ。また、保険代理店向けシステムへの生成AI導入も視野に入れており、代理店業務の支援や情報提供を通じた効率化も期待されている。
社内利用にとどまらず、広範なエコシステムの中で生成AIの活用が進む可能性がありそうだ。
ただし、高性能なAIであっても、誤った回答を生成する可能性はゼロではなく、過信は禁物であるといえる。
特に、法規制や契約内容が頻繁に変わる保険分野においては、モデルの継続的な学習とアップデートが求められるだろう。
また、セキュリティやプライバシー面においては、特に代理店業務への適用が進めば、顧客情報の取り扱いが増加するため、ガバナンス体制の強化が不可欠となるだろう。
いずれにしても、今回の流れは、業界全体のAI利活用モデルの高度化に寄与する可能性を秘めているといえるだろう。