「オスのマウスが出産」フェイクニュース拡散 AI生成の虚偽情報が社会に与える深刻な影響とは

2025年4月22日、SNS上で「オスのマウスが肛門から出産した」というフェイクニュースが拡散された。中国・上海の研究チームによるものとされたが、実際にはAIツール「Grok」によって生成された完全な虚偽情報である。
虚構の科学ニュースが40万回閲覧 AIが作り出した「事実」と錯覚される危険性
話題となった投稿は、X(旧Twitter)上の「ツイッター速報」というアカウントが5ちゃんねるの投稿を引用する形で公開したものだ。この投稿は短時間で約40万回ものインプレッションを記録しており、数多くのリポストとコメントが寄せられたが、多くはフェイクと認識せずに受け入れていた。
Grokの生成画面に「架空のニュースである」と明記されているにも関わらず、それを読み取らない、あるいは疑問を持たないユーザーが多数存在していたことになる。これは単なるSNS上の誤解にとどまらず、社会全体の情報リテラシーの欠如を示すものであり、極めて深刻な問題だ。
フェイクニュースがSNSで拡散される背景には、情報の出所を精査せずにシェアするという行動パターンがある。特に今回のような生物学的に異常な情報は、「意外性」によって人々の興味を引き、無批判に拡散されやすい。
AIツールによる情報生成のハードルが年々低くなっていることも、懸念材料の一つだ。Grokは簡単な指示文を与えるだけで、リアルに見える「ニュース」を瞬時に作成できる。こうしたテクノロジーの普及は、フェイクニュースの拡散速度と範囲を加速させ、現実と虚構の境界を曖昧にするリスクを内包していると言える。
生成AI時代に問われる情報リテラシー 誤報拡散の抑止に必要なアクションとは
今回の事例は、情報を受け取る側の「見る目」がいかに問われるかを改めて浮き彫りにした。生成AIの発達により、文章の巧妙さや体裁から真偽を判別することが以前にも増して困難になってきている。
過去にも、AIが生成した偽ニュースがSNS上で話題となった例は多い。特にアメリカでは、選挙時期のフェイク情報拡散が大きな社会問題となっており、誤情報が政治的意思決定に影響を及ぼすケースも報告されている。今後、日本でも類似の事例が頻発する可能性は高い。
対策としては、まず教育現場における情報リテラシーの徹底が挙げられる。特に若年層を中心に、AIによる情報生成の仕組みとリスクを理解する教育が必要である。
加えて、プラットフォーム側もフェイクニュース検知のアルゴリズム強化や、警告表示の導入といった技術的アプローチを急ぐべきだ。
テクノロジーの進化は止まらない。しかし、その進化に対し、社会が適応していくためのリテラシー教育と制度整備はまだ追いついていない。
個人レベルでも社会制度レベルでも「見抜く力」を高めることが、不可避の課題であると言える。