ダイキンと日立、工場設備の故障診断に生成AIを応用 技術継承の壁を突破へ

2025年4月22日、ダイキン工業と日立製作所は、工場設備の故障診断を支援するAIエージェントの共同開発を発表した。
現在は国内工場で試験運用が始まっており、熟練技術者の知見をAIで再現する取り組みとして国内外の製造業界で注目されている。
熟練技術者の「暗黙知」をAIで再現
今回発表されたAIエージェントは、保全記録や設備図面、取扱説明書などの運用技術情報(OTデータ※1)を学習し、現場技術者が入力した障害状況に対し、10秒以内に原因と対策を提示する。
回答精度は90%に達し、ダイキンの一般的な保全技術者と同等水準と評価されているという。
この開発の背景には、ダイキン工業が抱える熟練技術者への過度な依存と、それに伴う将来的な退職リスクへの懸念がある。
同社は「マスカスタマイズ生産」と呼ばれる、多様な製品の高品質な少量多品種生産を実現するため、高度な保全体制の確立を急いでいる。
現在、世界90カ所以上に拠点を展開し、900人超の熟練者が保全を担っているが、そのノウハウの継承が課題となっていた。
AI開発は当初、実用性に課題を抱えていた。
これに対し日立は、熟練技術者が頭の中で行っている情報の解釈と因果関係の構築をモデル化。
設備の構造や過去の故障データを可視化するナレッジグラフを導入し、生成AIの出力精度を劇的に向上させた。
結果、初期の仕組みに比べ正答率は23%向上。
熟練者からも「具体的な故障要因を洗い出せており、現場で使えるレベル」との評価を受けている。
※1 OTデータ:
Operational Technologyの略。工場やインフラ設備に関する保全記録や操作手順、図面など、現場の運用情報全般を指す。
展開は国内外へ、技術標準化がカギか
このAIエージェントは、すでにダイキンの堺製作所臨海工場(大阪府)で試験運用されており、2025年5月からは滋賀県の工場を皮切りに国内拠点へ順次導入が始まる。
さらに米国とインドでも展開される予定で、ダイキンのグローバルな保全支援体制の中核技術として位置付けられている。
ただし、課題も残るだろう。
現在のAIは対象設備ごとに最適化されたデータを使用しているため、メーカーや拠点ごとに記録フォーマットが異なると、対応精度が下がる可能性がある。
今後は、設備仕様の標準化や学習データの整備が重要となるだろう。
また、現段階では形式知(※2)に基づいた応答が中心だが、熟練者の経験や勘といった暗黙知のデジタル化が進めば、AIによる診断はさらに深化する可能性がある。
ダイキンは製品の多様化とグローバル化を両立させるため、生産現場のスマート化を加速させる必要があるだろう。
一方の日立は、産業向けAIソリューションの高度化を進める中で、他社にも展開可能な汎用的な技術として今回の成果を見据えていると思われる。
両社の協業は、製造業におけるAI活用の一つのモデルケースとなるかもしれない。
※2 形式知:
マニュアルやデータとして言語化・共有可能な知識のこと。対して暗黙知は、経験や直感に基づき、言語化が難しい知識を指す。