イーサネットスイッチ市場が急成長　AIが変えるネットワーク戦略

2024年4月14日にIDC Japanが公表した調査によれば、日本国内におけるAI関連技術の進展が、データセンター向けイーサネットスイッチ市場の拡大を後押ししている。

AI需要が牽引するイーサネットスイッチ市場、拡大の鍵はバックエンドの最適化

IDC Japanが明らかにしたのは、AIの処理基盤であるデータセンターのネットワーク構造が大きく転換点を迎えているという点である。
AIプラットフォームやアプリケーションを支える「AIデータセンターネットワーク」（※）は、GPUサーバーや高速ストレージといったリソースを接続するための中核インフラであり、単なる通信経路ではなく学習効率や処理速度に直結する性能が求められている。

従来、バックエンドネットワークにはInfiniBandが主流であったが、近年はイーサネットの採用が現実的な選択肢として浮上してきた。イーサネットは、広く普及している技術であり、運用・保守のノウハウが成熟している。
さらに、ネットワークの拡張性が高く、将来的な広帯域化にも対応可能なロードマップが描かれている点で優位性がある。参入ベンダーが多いことも、価格競争や選択肢の広がりにつながっており、市場競争力を底上げしている。

特に、AI処理環境に求められる「マルチテナンシー機能」の導入が進んでいることは、イーサネットがAIデータセンター向けネットワークとして本格的に浸透する契機になりつつあると考えられる。

※AIデータセンターネットワーク：AIプラットフォームやモデルを高速に学習・推論させるためのGPUやストレージ、サーバー間をつなぐ専用ネットワークを指す。通信速度と拡張性が性能に直結する。

42%成長予測とセグメンテーション強化が意味する未来のネットワーク像

IDC Japanによれば、2024年から2029年にかけて、国内AIデータセンター向けイーサネットスイッチ市場は年平均成長率（CAGR）42.0%で成長を続け、2029年には市場規模が489億円に達する見通しである。
この急成長は、AIの活用が企業の競争力を左右する時代において、ネットワークが単なるインフラではなく戦略的資産へと変貌しつつあることを示していると思われる。

また、ネットワークセキュリティも注目すべき点だろう。
特に「マイクロセグメンテーション」の概念が再び脚光を浴びている。これは、ネットワーク内部をより細かく区切り、仮想的な壁を構築することで、攻撃者の横移動（ラテラルムーブメント）を防ぐ仕組みである。セグメントごとの可視化と柔軟なポリシー運用により、AIを扱うセンシティブな環境におけるセキュリティが一層強化されると期待されている。

IDC Japanのシニアリサーチディレクターである草野賢一氏は、「マイクロセグメンテーションは単なる技術手法ではなく、セキュリティ戦略の中心に位置づける必要がある。ネットワーク構成の再定義とともに、顧客への新たな価値提案として訴求すべきだ」と述べている。

今後、AIの進展に伴い、ネットワーク構成もさらに進化すると考えられ、セキュリティ対策とパフォーマンスの両立が求められるようになるだろう。
イーサネットの柔軟性と拡張性は、こうした要請に応えうる有力な技術であり、今後のネットワーク戦略において中核的な位置を占めるようになるのではないだろうか。