リコー、企業トップの“デジタルクローン”を提供開始　AIで理念伝達と人材育成を支援

2025年4月11日、リコーは経営者の理念を学習したAIを搭載した3Dモデル「デジタルクローン」の提供を発表した。社員教育や企業内コミュニケーションを目的とし、第一弾として久永修平社長のクローンがイベントで披露された。

経営理念を伝える新たな手段「デジタルクローン」

リコーが発表した「デジタルクローン」は、経営者の考え方やビジョンを再現するAIと、本人そっくりの3Dモデルを組み合わせた新しい企業支援ツールである。
初の導入事例となるのは、久永修平社長のクローンで、2025年3月21日に行われた創立105周年記念イベントでお披露目された。モデルの制作には、360度撮影による200枚以上の画像データを使用し、人物の質感や表情までも高精度に再現されている。

この3Dモデルには、久永社長の過去の発言や文章、経営方針に関する情報をもとに学習したAIが連動しており、ユーザーとの対話が可能だという。
社員からの質問に答える形式で、理念の理解を深めたり、顧客向けのブランドメッセージを伝えたりすることが想定されている。活用シーンは、社員教育をはじめ、採用活動、企業プロモーション、受付業務など多岐にわたる。

背景には、企業が掲げる理念や価値観を社内外に一貫して伝える必要性の高まりがあると考えられる。デジタルクローンは、経営者が常に現場に立ち会わなくても、思想やメッセージを忠実に再現できる手段として注目されている。

AI活用の歴史と今後の展望

リコーは1990年代からAIの研究開発に着手しており、2015年には深層学習AI、2020年以降は自然言語処理技術を本格導入した実績がある。近年は業務効率化を支援する「仕事のAI」シリーズの展開を通じて、企業のデジタル変革（DX）を支援してきたという。
今回のデジタルクローンは、AI技術を活用した「対話による理念浸透」の試みとして、同社の取り組みの集大成とも言える位置づけだろう。

久永社長自身も「先進的な取り組みに挑戦する企業姿勢をトップ自ら率先して示したい」と表明しており、自らのデジタルクローンがその象徴的存在となることを目指しているとみられる。
今後は他の企業経営者にも同様のクローン提供を視野に入れており、複数の業界における導入が進めば、企業文化の可視化や継承手段として新たなスタンダードになる可能性もある。

一方で、AIの回答内容の信頼性や、経営者の「言葉の重み」が仮想空間で正確に伝わるのかといった課題も残ると考えられる。
そうした懸念をクリアできれば、理念を伝える「伝道者」としてのデジタルクローンは、多くの企業にとって魅力的な選択肢になるだろう。