山形大学の健康アプリ「Well-Being YU」、がん治療後の経過観察を支援へ AIとLINE連携で全国展開スタート

2025年4月11日、山形大学が開発した健康管理アプリ「Well-Being YU」が全国展開されることが発表された。
AIとスマートフォンのLINEを活用し、特に前立腺がん治療後の長期的な経過観察支援に活用される計画で、医療負担の軽減と質の向上が期待されている。
AIが健康管理をサポート、がん治療後の遠隔観察にも活用
「Well-Being YU」は、山形大学が2023年12月に開発・リリースした健康管理アプリである。
スマートフォンにおいて広く使われているLINEと連携し、利用者が身長、体重、血圧、飲酒・喫煙習慣、服薬情報などのデータを入力できる仕組みを備えている。
これらの情報をもとに、医師や大学教員、そしてAIが健康に関するアドバイスやメッセージを送信する。
アプリには、がんや脳卒中などの疾病リスクを今後5年間のスパンで予測する機能も搭載されており、ユーザーが自らの健康状態に対する意識を高めることを狙いとしている。
当初は山形県内を対象とした実証運用が行われ、2025年3月末時点で約1,100人の県民が利用していた。
情報処理の安定性やユーザーからのフィードバックを踏まえ、今回、全国展開の段階に入った。
とりわけ注目されているのが、山形大学医学部に併設される東日本重粒子センターとの連携である。
東日本重粒子センターでは、前立腺がんを中心に重粒子線治療を実施しており、治療後は5〜10年にわたる定期的な血液検査とPSA値(※)の測定が求められる。
この経過観察のプロセスにおいて、「Well-Being YU」は患者自身によるデータ入力を可能とすることで、通院頻度を抑えると同時に、必要時には医師から迅速な対応を得られる体制を構築している。
重粒子線治療後の患者にとって、移動や待機時間の負担軽減は大きな意味を持ち、遠隔地からのアクセスにも対応可能な本アプリは、地域格差の緩和にも寄与しうると考えられる。
※PSA値:前立腺特異抗原(Prostate Specific Antigen)の略で、前立腺がんのマーカーとして血中濃度を測定する検査指標。
がん治療に対するAI健康アプリの未来像
AIによるがん疾患リスクの予測や体調変化の早期発見機能、また治療後の経過観察機能は、日常的に入力されたデータを継続的に分析できるため、従来の定期検診では補いきれない部分を補完する力を持つ。
個別最適化された予防医療の実現に近づく一歩であり、患者自身が主体的に健康に向き合う契機を提供する。
ただ、AIがもたらすのはメリットばかりではなく、AIが提示する健康アドバイスが医師の診断と異なる場合、受け手側に混乱を生じさせる恐れも拭えない。
現時点では、AIが医療判断を代替するのではなく、「補助」として位置づけられるべき段階であると認識する必要がある。
がん治療にAIを用いることは、医療の質を高める可能性を持つが、同時に人間とAIの役割分担、情報の透明性、患者支援の仕組みづくりといった課題と向き合う必要がある。
技術が先行するのではなく、制度と文化が追いつくことで、真に意味ある医療の変革が実現するのではないだろうか。