AI開発競争におけるカナダの役割 電力供給と地政学的リスクに揺れる最前線

2025年4月11日、カナダ・バンクーバーで行われたTEDが主催する会議にて、グーグル元CEOのエリック・シュミット氏がAI開発競争における電力確保の重要性を強調した。
米国の勝利にはカナダの水力発電が鍵だとしつつ、政治的障壁が協力を阻んでいる現状に警鐘を鳴らしている。
水力資源を巡る提言と、カナダとの協力を阻む政治的壁
AI技術の発展が加速する中で、米国におけるデータセンターの電力需要は急増している。
シュミット氏は会場で、現在の稼働率を維持するためには90ギガワットの追加電力が必要であるという現実に言及し、国内でこれを賄うのは困難だと指摘した。
米国での原子力発電については、90基もの新設は現実的でなく、代替案が必要であると訴えた。
その中で浮上したのが、カナダとの連携である。
カナダは豊富な水力発電資源を持ち、再生可能エネルギーとしても環境負荷が少ない。
この点を踏まえ、同氏は「米国がAI競争で勝ち抜くには、『カナダを考えよう』」と発言した。
さらに、カナダ国民の親切さも、エネルギー協力の推進において心理的障壁を下げる要素になるとの見解を示した。
しかし、こうした理想には障害も多い。最大の課題は政治的な不確実性にある。
シュミット氏は、特にトランプ政権下で進められた関税政策が両国の協力を難しくしていると語り、今後の政権交代によって状況が改善されることを期待している。
データセンターの安全保障リスクと、エネルギー外交の今後
電力の供給源がAI競争の勝敗を分ける要素であるとすれば、次に問われるのはその安全性だろう。
シュミット氏は、AIをめぐる覇権争いが激化する中で、電力インフラやデータセンター自体がサイバー攻撃や物理的攻撃の対象となるリスクに触れた。
特に、AIの独占的地位を狙う国家が、先制的な妨害行動に出る可能性について言及し、地政学的リスクへの備えを呼びかけた。
このような指摘を受け、カナダ国内でもAI開発とエネルギー政策の関連性が注目されている。
カナダ野党・保守党であるポワリエーブル党首は、1月のインタビューで、国内に約250のデータセンターが存在していることを紹介し、再生可能エネルギー資源の国内活用を通じて、経済的利益をカナダ国内に還元する必要性を訴えている。
最大の障害は、両国間に横たわる政治的リスクである。
とくに、過去の関税政策の影響や政権交代による外交方針の転換は、長期的なエネルギー協力の足かせとなりかねない。
今後、米国とカナダがAI開発の覇権争いにどう関与していくかは、単なる技術競争にとどまらず、エネルギー安全保障や国際協調の枠組みにまで影響を及ぼすと考えられる。
シュミット氏の提言は、単なる戦略論ではなく、近未来の産業構造と国家間関係の在り方を問う警鐘とも言えるだろう。