GoogleがAI開発の新チームを設立　人間と同等の柔軟な思考力を持つAIを作ることが最終目標か

汎用人工知能（AGI）の開発を目指すGoogleのAI研究機関Google DeepMindは、物理世界のシミュレーションを可能にする世界モデルAI（World Model）の開発に向けて新たなチームを設立した。2025年1月7日のTim Brooks氏のポストで明らかになった。(https://x.com/_tim_brooks/status/1876327325916447140)

注目すべきは、OpenAIの動画生成AI「Sora」の開発リーダーであったTim Brooks氏を招聘し、チームリーダーに据えた点である。この動きは、人工知能の次なる進化である汎用AI、AGIの実現に向けた重要な一歩として注目を集めている。

物理世界のシミュレーションを可能にする世界モデルAIの開発へ

世界モデルAIは、現実世界の物理法則や相互作用を理解し、シミュレーションできる新しい人工知能技術である。Googleは、既存のAIモデルであるGemini、Veo、Genieの技術を統合し、「最高水準の計算能力」を活用して開発を進める方針だ。すでに開発中のGenieプロジェクトがリアルタイムで3D世界を生成できる技術を実証しており、世界モデルの実現は着々と進行している。

開発チームのリーダーに就任したTim Brooks氏は、OpenAIの動画生成AI「Sora」の主要開発者として、高度な時空間モデリング技術の実現に成功した実績を持つ。Soraで実証された「物理法則に従う自然な動きの生成」「長時間の一貫した動画生成」という技術は、世界モデルAIの開発において核となる要素技術である。

「物理AI」という分野では、NVIDIAが自動運転車向けプラットフォーム「Cosmos」を発表し、World Labsも空間知能に特化した大規模世界モデルの開発を進めるなど、大手テクノロジー企業による開発競争が加速している。
世界モデルAIの開発は、物理法則に基づく予測とシミュレーションを通じて、次世代AIの基盤となる「物理的理解」を実現する重要な足がかりとされている。

AGIの実現に向けた野心的な一歩

AGI（Artificial General Intelligence）は、人間のように柔軟に思考し、学習し、問題解決ができる人工知能を指す。AGIが問題解決を行えるようにするためには、物理世界の理解と予測能力が不可欠であり、世界モデルAIはその基礎として重要視されている。世界モデルAIが盤石なら、AGIは現実世界の物理法則を理解し、それに基づいて行動を予測・実行できるようになる。

Google DeepMindの求人情報では、「動画やマルチモーダルデータでのAIトレーニングの拡張が、AGIへの重要な道筋である」と明記している。Googleが、物理世界のシミュレーション能力が、AGIの実現に向けた重要な構成要素であるとみなしている証左といえるだろう。

世界モデルAIの開発により期待される具体的な進展として、物理シミュレーションに基づく行動予測能力、実世界の制約を考慮した問題解決能力、そして物理的な因果関係の理解に基づく推論能力などがある。これらの能力は、AGIが人間のような汎用的な知能を獲得する上で核となる要素とされている。

AGIが実現すれば、これまでのAIよりも柔軟にタスクを実現できるようになるだろう。一方で、ITメディアの「Techcrunch」(https://techcrunch.com/2025/01/06/google-is-forming-a-new-team-to-build-ai-that-can-simulate-the-physical-world/)はAnimation Guildの調査を引用し、2026年までに10万人以上の映像関連職がAIの影響を受けるなど、雇用への影響を無視できないと指摘。技術の発展がもたらす社会的影響にも注目が集まっている。

まとめ

世界モデルAIの開発は、物理世界の理解という観点からAGIの実現に不可欠な要素を提供する。Google DeepMindの新チーム設立は、物理シミュレーション能力とAGIの統合という野心的な目標に向けた具体的な一歩である。
技術者にとっては、物理世界の理解とAIの統合という新しい領域でのキャリア機会が広がることが期待される。ただし、著作権問題や雇用への影響など、社会的な課題への対応も同時に求められている。今後は、技術開発の進展と社会的影響のバランスを取りながら、開発が進められていくことになるだろう。