【Week : 4/7-4/11】テクノロジーを活用した革新的なサービスが資金を集める スタートアップ資金調達リサーチ

4月が始まり、引き続き様々な分野で活躍するスタートアップ企業が資金調達を発表しました。
この記事では、4月7日から4月11日の間にリリースされた、スタートアップの資金調達ニュースをまとめています。 さらに、事業内容、調達金額、今後の展望についても詳しく解説します。
タクシー・交通業界のDXを推進する電脳交通、25億円の資金調達を実施
事業内容: タクシー配車システムの開発・提供、配車業務委託サービスの運営
調達金額: 25億円
引受先: 三菱商事、Uber Technologies、国際自動車、大和自動車交通、つばめ自動車、阿波銀キャピタル、いよぎんキャピタル、エムケイ、三和交通、JPインベストメント、第一交通産業、徳島大正銀行
今後の展望: タクシー事業者の経営課題に対応する総合的なサービスの提供、配車アプリや交通関連サービスとの連携強化
電脳交通は、2015年の創業以来、タクシー業界のデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進し、タクシー事業者の基幹業務である配車業務の効率化を支援してきました。電脳交通のクラウド型タクシー配車システムである「DS」は、全国47都道府県・約600社・約21,000台のタクシー車両に導入されており、配車業務委託サービス「タクシーCC」では全国41都道府県において、月間20万件を超える電話によるタクシー配車依頼に対応しています。これらのサービスを通じて、地域の移動インフラの利便性と持続可能性の向上に貢献しています。
今後は新しいミッションである「交通業界へ、革新を。そして社会と企業を支え、未来の安全と信頼に貢献する。」のもと、タクシーの配車支援にとどまらず、労務管理や業務効率化、車両の調達・管理支援、採用支援など、タクシー事業者が直面するさまざまな経営課題に対応する総合的なサービスを提供していく予定です。また、他社サービスとの連携を行うシステムである「電脳コネクト」を通じて、配車アプリや交通関連サービスとの連携を一層強化し、全国規模で移動の利便性向上を目指しています。今回はUberとの資本業務提携を行っており、今後も新たなパートナーシップを通じて、交通空白地を含む地域交通の課題解決に取り組んでいきます。

360°全方向移動技術を基盤とした次世代産業の創出を目指すTriOrb、13.5億円の資金調達を実施
事業内容: 球駆動式全方向移動機構「TriOrb BASE」の開発・製造・販売
調達金額: 13.5億円
引受先: 非公開
今後の展望: 技術開発の加速、量産体制の構築、グローバル展開の推進
TriOrbは、九州工業大学発のロボットベンチャーです。球駆動式全方向移動機構「TriOrb BASE」を基盤に、製造業の現場で求められる変種変量生産、労働人口の減少、DX推進といった事業を展開しています。コアとなる高性能球駆動式全方向移動機構技術は、3つの球体と3つのモーターのシンプルな構成で、全方向に自由自在に移動できるもので、外乱走破、位置決め精度、耐荷重などの課題をクリアできます。。この技術により、工程間搬送の自動化や複数台で搬送を行う協調搬送システムを活用し、柔軟で拡張性の高いフレキシブルな生産ラインの実現を目指しています。
同社は今回の資金調達を機に、ミッション・ビジョン・ステートメントを改定し、「Holonomic World —移動制約の解放で、あらたな文明と文化を。」という新しいビジョンを掲げました。360°の全方向移動機構による移動の制約からの解放により、産業、社会、そして人類の可能性を広げることを目指しています。今回調達した資金を活用し、技術開発の加速、量産体制の構築、グローバル展開の推進などの事業拡大に取り組んでいく方針です。

製造業向けソフトウェアの開発・販売を行うFact Base、14.5億円の資金調達を実施
事業内容: 製造業向けソフトウェア「ズメーン」の開発・販売
調達金額: 14.5億円
引受先: 三菱UFJキャピタル、みずほキャピタル、りそなキャピタル、その他
今後の展望: IPOに向けた組織基盤の強化、国内外拠点の増設およびグローバル展開の推進、人材採用、プロダクトの継続的な開発・機能強化
Fact Baseは、「町工場が主役の受発注プラットフォームを創る」というビジョンのもと、図面管理システム「ズメーン」を提供しているスタートアップです。「ズメーン」は、図面とあらゆるデータを紐づけすることで、一元管理を可能にするクラウドサービス。誰でもドラッグ&ドロップなどで簡単に操作ができ、スマートフォンやタブレットでも使えるなど、利便性にも優れているサービスです。図面を起点に製造業の基幹システムとなることを目指しており、多くの企業から高い評価を得ています。現在、国内外で急速に導入が進んでおり、製造業の現場におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)を加速させています。
Fact Baseは国内では2024年5月に大阪、2025年3月に名古屋に営業所を新設し、海外では11拠点を構えるなど、グローバル展開にも注力しています。海外においても急速にシェアを拡大する中で、単にテクノロジーを輸出するのではなく、「Made in Japan」の緻密さや品質の高さ、現場力といった日本の製造業が培ってきた価値を世界に示すことをミッションとしています。今後も国内外を問わず”町工場が主役”となる世界を実現すべく、グローバルに挑戦し続ける方針です。今回調達した資金は、IPOに向けた組織基盤の強化などに活用されます。

がん治療薬を開発するリンクメッド、20.5億円の資金調達を調達
事業内容: 放射性同位体64Cu(銅-64)を用いた放射性医薬品の開発
調達金額: 20.5億円
引受先: 慶應イノベーション・イニシアティブ、ロッテホールディングス、三井住友信託銀行、野村スパークス・インベストメント(日本グロースキャピタル投資法人)、三菱UFJライフサイエンス4号投資事業有限責任組合、大阪・関西万博活性化投資事業有限責任組合、ちばぎんキャピタル
今後の展望: LM001の第三相試験の加速、上市に向けた64Cuの供給体制確立、他のパイプラインの臨床試験や研究開発の促進、人材採用・組織機能の強化
リンクメッドは、放射性医薬品の開発を行っている医療系のスタートアップです。量子科学技術研究開発機構(QST)における研究をもとに設立され、銅の放射性同位体である64Cuを用いたがんの治療薬・診断薬を開発しています。64Cuは、がん細胞のDNAを高いエネルギーで効果的に攻撃できるため高い治療効果が得られ、がん特異的に結合する様々な分子に結合させることが可能で、高い効果と副作用の低減が期待されます。さらに、陽電子を放出するため、陽電子放射断層撮影(PET)診断でがんへの薬剤集積を確認しながら治療できるという特徴があります。
同社の開発一号品である64Cu-ATSM(LM001)については、悪性脳腫瘍の中でも最も治療が難しい再発・難治性悪性神経膠腫の患者を対象に、治験が2024年6月から開始されています。また、64Cuを用いた放射性医薬品の国内における量産体制構築に向けて、サイクロトロンや製剤設備の工場を千葉市内に建設中です。今回のシリーズBセカンド・サードクローズでの調達資金により、LM001の第三相試験を加速させ、上市に向けて64Cuの供給体制を確立することで、再発悪性神経膠腫の患者向けの創薬を推進しています。さらに、64Cuの放射性医薬品をグローバルに届けるべく事業を推進していく方針です。

AIを利用したメンタルヘルスケアを提供するI’mbesideyou、3.6億円の資金調達を実施
事業内容: 米国における移民向けメンタルヘルスケアサービスの提供
調達金額: 3.6億円
引受先: エンジェル投資家等
今後の展望: AIと人間の力を組み合わせたパーソナライズされたメンタルヘルスケアの提供
I’mbesideyouは、AIを利用して、米国における移民向けメンタルヘルス事業を展開するスタートアップです。2024年後半に米国カリフォルニア州で「インド人移民向けメンタルヘルスケア」に特化したサービス「TheraWin」を開始し、すでに毎月数百人のインド人移民が専門クリニックのセラピーを予約しています。米国移民向けメンタルヘルスケアはセラピーだけでも約3兆円の規模がありますが、14.6億人のインド人の文化や背景を深く理解したケアを提供することで、規模の大きい市場にリーチしていく戦略を採っています。
今後は、AIと人間の力を組み合わせ、AIにより最適化されたビジネスプロセスを通じて、各々の育ってきた環境や文化の違いをしっかりと反映した、個々人にパーソナライズされたメンタルヘルスケアを提供していきます。代表取締役社長の神谷渉三氏は「メンタルヘルスは、世界的に課題認識されているにも関わらず十分な解決策が提供されていない」と指摘し、日本初のデカコーンをこの領域で創り出し、アジアの人たちを救う新しい社会インフラを構築するという目標を掲げています。

まとめ
4月7日から4月11日のスタートアップ資金調達例をまとめました。
今週のは、異なる産業分野でテクノロジーを活用したサービスを提供するスタートアップが資金を調達していることが見て取れます。電脳交通のタクシー業界DX、TriOrbの全方向移動機構、Fact Baseの製造業向けソフトウェア、リンクメッドの放射性医薬品開発、I’mbesideyouの移民向けメンタルヘルスケアと、各社独自の技術やサービスで社会課題の解決に取り組んでいます。特に目立つのは、DX推進や技術革新を通じて既存産業の効率化・高度化を図る企業への投資が活発である点です。
また、国内市場だけでなくグローバル展開を視野に入れている企業が多いことも特徴的です。Fact Baseは11の海外拠点を構え日本のものづくりの価値を世界に発信し、I’mbesideyouは米国市場に100%フォーカスして日本初のデカコーンを目指しています。リンクメッドも64Cuの放射性医薬品をグローバルの患者に届けることを目標としています。日本国内の人口減少や市場縮小への懸念から、創業初期からグローバル市場を視野に入れた事業戦略を展開するスタートアップが増えているようです。今後も革新的な技術やサービスを持つスタートアップへの投資は継続すると予想されます。
「Plus Web3」では、今後も資金調達例を紹介してまいります。