米OpenAIは、イランとロシアに関連する秘密裏の情報工作に関与したアカウントを停止したと発表した。イランの工作は架空の記者7人の名義で、世界各地のオンラインメディアに記事を掲載させていたという。
イラン、架空の記者7名義で100本近く掲載 ロシアも中南米で工作
2026年10月8日の発表によると、イランの工作ではChatGPTが、記事の推敲や売り込み文の作成、SNSコメントの生成などに使われていた。
工作側は、西側諸国のジャーナリストを装った架空の著者7人の名義で、米国とイランの紛争を扱う英語記事を売り込んだ。2025年7月以降、これらの名義の記事が十数のオンラインメディアで100本近く掲載または再掲載されたことを、OpenAIは公開情報から確認している。
記事とは別に、SNSコメントも一括で生成された。米国を侵略者、イスラエルを米国にとって信頼できない同盟国、イランを抵抗する被害者として描くよう指定されていた。
OpenAIが確認できた投稿には、目立った反応を得たものは見当たらなかった。
一方、ロシアの工作「Dark Clark」で、ChatGPTは主に内部報告書の作成と更新に使われた。工作そのものは、中南米を標的に、自称調査機関「社会調査センター」を架空の人物を介して支配し、事情を知らない現地スタッフに記事を書かせていたというのが、OpenAIの見立てである。
工作側が内部報告で拡散したと主張した偽情報の一部は、ファクトチェック機関に取り上げられ、公式な否定声明も出た。
また、ペルーの学校をだまして行事を開かせたと工作側が主張する件では、複数国の報道や、ポーランド選出の欧州議会議員の発言につながったことを示唆する証拠もあるという。
OpenAIは、イランの記事掲載を「Breakout Scale(※)」のカテゴリー4、コメント投稿をカテゴリー2と評価した。ロシアの工作はカテゴリー5で、同社が阻止した工作でカテゴリー5に達したのは初めてである。
同社は、いずれの内部報告も成果が誇張されていたと指摘する。イランはSNSでの影響を大きく見せる誤解を招く算出方法を使い、ロシアは他者の活動を自分たちの手柄だと主張した。公開情報で確認できない主張もあった。
ただし、イランの記事掲載は同社が公開情報で確認したもので、AIが使われたのは一部の業務にとどまる。
※Breakout Scale:影響工作の拡散度を1(最低)から6(最高)で評価する尺度。
AI時代に問われるメディアの検証力
今回の事例は、生成AIが情報発信の敷居を下げる一方で、虚偽の身元や主張を伴う情報工作にも転用され得ることを示している。文章の完成度だけでは、発信者の信頼性を判断できない状況が強まると考えられる。
特に注意したいのは、架空の記者に経歴やSNSアカウントを与えることで、実在する人物らしい外観まで作り込める点だ。記事の内容だけを確認しても、発信主体の実在性や背後関係を見抜けない場合がある。
メディアとしては、著者の身元、情報源、掲載を求める側の背景を複数の角度から確かめる姿勢が一つの鍵になりそうだ。
ただし、AIを使った情報工作への対策を強める際には、正当な報道や匿名の発信まで一律に疑わないような配慮も求められるだろう。文章がAI生成らしいという理由だけで内容を退ければ、根拠のある情報を見落とすおそれも否定できない。
今後は、AIサービス提供者による不正利用の検知に加え、メディア側の編集・確認手順を組み合わせていくことが重要になると考えられる。
こうした確認の仕組みが日常の業務に組み込まれているかどうかが、情報工作への耐性を分ける一因となるのかもしれない。
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