2026年9月30日、国内の日立製作所とファナックは、フィジカルAI実装の共同事業化に向けた戦略的パートナーシップを締結した。日立のAI技術とファナックの産業用ロボットを融合し、日立の工場を「カスタマーゼロ」として実証を進め、2027年度からグローバル展開を目指す。
日立の工場でフィジカルAIを実証、2027年度から共同展開
今回の提携では、日立の「HMAX Industry」に代表されるAI技術と、ファナックのAI技術を備えた産業用ロボットを組み合わせ、変化する製造現場に対応できるフィジカルAIを構築する。日立グループの茨城地区の工場を「カスタマーゼロ(※)」として活用し、2027年度までに実際の製造現場で必要となる技術の確立を目指す。
共同実証では、さまざまな形状の部品のピッキングや、生産品の変更に伴う段取り替えなどを対象とする。日立のフィジカルAIモデルとファナックのロボット技術・AI技術を組み合わせ、認識精度や動作、タクトタイム、品質への有効性を検証しながら改善していく。
さらに、日立が開発したエッジAI半導体とファナックの産業用ロボットを組み合わせ、その有効性も検証する。AIが現場から得られる多種多様なデータを継続的に学習することで、工程やラインだけでなく、工場全体を柔軟に運用する仕組みの構築を進める考えだ。
背景には、従来型の自動化では対応しにくい作業が残っていることがある。部品の取り扱いや設備への供給、加工・組立、工程間搬送などは、現場の状況や対象物に応じた判断が必要であり、ピッキングや段取り替えでは人手への依存が続いている。
※カスタマーゼロ:自社を最初の顧客として新技術を実際の現場で導入・検証し、運用上の課題や知見を蓄積する考え方。
現場学習で自律化を加速、技能継承への効果に期待
両社は、共同実証で得たフィジカルAIの実装・運用ノウハウを生かし、2027年度から両社のグローバルな顧客基盤を活用した共同展開を予定している。対象分野には半導体、医薬品、ヘルスケア、高機能材料、自動車、物流、食品、造船、農業などが挙げられており、製造業以外も含む幅広い産業への波及が見込まれる。
特に期待されるのが、熟練者の経験や人手に頼ってきた作業の自律化である。現場固有のルールをAIが継続的に学習できれば、模倣学習やデジタルツイン(※)だけでは対応しにくかった実環境の変化に対し、認識・判断・動作を柔軟に調整できる可能性がある。
一方、実際の製造現場で安定稼働させるには、認識精度だけでなく、動作の正確性や処理時間、品質など複数の条件を満たす必要がある。AIとロボットを組み合わせることで機能が高度化するほど、現場での継続的な検証と改善が重要になるだろう。
日立が持つ生産ラインの構築力やデジタル技術と、ファナックが培ってきたロボットの制御技術や導入実績を組み合わせる今回の取り組みは、AIを現実の生産活動へ組み込むための実証となる。
カスタマーゼロで得た成果をどこまで他社の生産工程へ展開できるかが、2027年度以降の共同事業化を左右するポイントになりそうだ。
※デジタルツイン:現実の設備や工程などを仮想空間上に再現し、シミュレーションや分析に活用する技術。