2026年6月4日、米シンクタンクFAI(Foundation for American Innovation)の研究者らは、合成DNAの注文に対するスクリーニングと記録保存の法的義務化を求める公開書簡を発表した。OpenAIやAnthropic、Google DeepMind、Microsoft AIのトップらが連名で署名しており、AIの進化を背景にバイオセキュリティ強化を求める動きとして注目を集めている。
AI大手トップらが合成DNA規制を要請
公開書簡にはOpenAIのサム・アルトマン氏、Anthropicのダリオ・アモデイ氏、Google DeepMindのデミス・ハサビス氏、Microsoft AIのムスタファ・スレイマン氏など、AI業界を代表する人物が名を連ねた。さらにノーベル賞受賞者や生命科学研究者、国家安全保障の専門家、DNA合成企業の経営者らも参加しており、異例の幅広い連携となっている。
書簡が求めているのは、合成核酸の製造事業者やDNA合成装置メーカーに対し、危険な遺伝子配列の有無を確認するスクリーニングを義務付けることだ。加えて、顧客情報や注文データの保存も求めている。仮に初期検査をすり抜けた場合でも、後から発生源を追跡できる体制を整える狙いがある。
こうした懸念は新しいものではない。DNA断片からウイルスを再構築する研究は20年以上前から知られており、合成DNAは長年にわたりバイオセキュリティ(※)上の潜在的なリスクとみなされてきた。そのため業界団体IGSCは2009年から自主的な安全基準を運用してきた経緯がある。
しかし近年はAIの急速な進歩によって状況が変化している。公開書簡では、最新のAIシステムが高度なウイルス学や実験手法に関する質問で専門家レベルの知識を示しつつあると指摘しており、知識面の障壁が低下する可能性に警鐘を鳴らしている。
※バイオセキュリティ:病原体や遺伝子技術が悪用されることを防ぎ、人や社会への被害を未然に防ぐための安全管理や規制の総称。
AIと生命科学の融合が規制議論を加速
今回の提言が注目される理由は、AI企業自身が規制強化を求めている点にある。AI業界では規制を巡って意見が分かれることも少なくないが、合成DNAの安全対策については企業、研究者、政策関係者の間で比較的強い合意が形成されていると言える。
義務化が実現すれば、危険な病原体の設計や取得を試みる行為への抑止効果が期待される。特にAIによって高度な生物学的知識へのアクセスが容易になる中、供給網の段階で監視を強化することは現実的かつ負担の少ない対策と考えられている。
一方で、研究開発への影響を懸念する声が出る可能性もある。記録保存や本人確認の手続きが増えれば、スタートアップや研究機関の事務負担が拡大するためだ。そのため規制の厳格化とイノベーション促進のバランスが重要な論点となる。
米議会ではすでに関連法整備の動きが進んでおり、署名者らは今会期中の対応を求めている。AIとバイオテクノロジーの融合が加速するなか、今回の提言は次世代の安全保障ルールづくりの出発点となる可能性がある。今後は米国だけでなく、各国が同様の枠組みを検討する展開も十分考えられる。