山形大学、ナスカの地上絵研究でAIを駆使し新たな発見を促進

2025年5月18日、山形大学の坂井正人教授が講演を行い、ペルー・ナスカの地上絵研究におけるAI活用の成果と展望を語った。AIによる分析の効率化により、これまでに600点以上の地上絵が確認されており、同大学は国際的な研究の最前線に立っている。
AIが加速させる地上絵研究、山形大学が果たす世界的役割
山形大学は2012年、南米ペルーに研究拠点を設立して以来、ナスカ台地に描かれた地上絵の調査を精力的に進めてきた。地上絵は地表の小石を取り除くことで線を描く「ネガティブ・ドローイング」(※)の形式を持ち、その多くが空からでないと認識できない巨大な図形である。
同大学のチームはこれまでに約600点の新たな地上絵を確認し、これが国際的な評価を高める大きな要因となっている。
坂井教授が今回明かしたのは、人工知能(AI)の導入によって、研究効率が劇的に向上したという事実である。
従来は人の目と足を頼りに、広大なナスカ台地を数年かけて調査する必要があったが、AIに衛星画像やドローン映像を学習させることで、21倍速く作業を進めることができるという。
さらに坂井教授は、地上絵の存在意義について「儀礼的目的や情報伝達の役割を担っていた可能性がある」との見解を示した。アンデス地域では文字が存在せず、絵や形の組み合わせがメッセージを構成していた可能性が高いという。
これにより、地上絵は古代社会の思考や信仰を映し出す“文字なき言語”として再評価されつつある。
※ネガティブ・ドローイング:地表にある石や砂を取り除き、地面の色の違いを利用して描かれる手法。ナスカの地上絵の多くがこの形式で構成されている。
AIで地上絵を“読む”時代へ、文化遺産の保護と技術の両立が鍵に
地上絵の意味や背景に迫るため、山形大学ではAIによるメッセージ解読にも取り組み始めている。形状や配置のパターンを機械学習によって解析し、どのような意図や社会的背景がそこに込められているのかを探る計画だ。
これにより、これまで直感や仮説の域を出なかった解釈に対して、より客観的な分析が可能になる見通しである。
一方で、地上絵を取り巻く環境には課題も存在する。
近年、ナスカ台地周辺では鉱山開発が進行しており、工事車両が誤って地上絵を損傷するケースが報告されている。
こうした状況を受け、ペルー政府は坂井教授に対し、地上絵の正確な位置を特定・可視化する作業の依頼を行っており、今後は保護と利活用のバランスが求められる局面となる。
山形大学の研究は、単なる発見や記録にとどまらない。AIを駆使することで、文化遺産の持つ意味を新たな角度から解明し、同時にその保存と継承に資する具体的な対策を講じる先進的な試みとなっている。
ナスカの地上絵は過去を語るだけでなく、未来のテクノロジーと人類の接点を象徴する存在となりつつある。