X社がXChat発表 ビットコイン式暗号化に専門家疑問

2025年6月2日、米X社のイーロン・マスク氏が、新たなメッセージ機能「XChat」の提供を開始したと発表した。
ビットコイン風の暗号化方式を強調する内容だが、米国の暗号資産・セキュリティ専門家の間では、その技術的根拠や安全性に対して疑問の声が相次いでいる。
ビットコイン方式の暗号化を採用と発表も、技術的根拠に疑問符
マスク氏が発表したXChatは、信頼性に優れるプログラミング言語、Rustを基盤に構築された新たな通信機能だ。
エンドツーエンド暗号化やメッセージの自動削除、電話番号不要のファイル共有などを特徴としている。
マスク氏はこれを「ビットコイン方式の暗号化」に基づいた高度なプライバシー保護機能と説明しているが、専門家の見解は異なっている。
メリーランド大学のイアン・ミアーズ助教授は、自身のX(旧Twitter)アカウントで「ビットコインは主に暗号化ではなく署名を使用している。これは、NASAが水素と酸素を使用しているから、我々はロケットを水で動かすことにした、と言っているようなものだ」と批判している。
実際、ビットコインのトランザクション(※)は暗号化されているわけではなく、デジタル署名によって真正性を保証している。
そのため、マスク氏の言う「ビットコイン的暗号化」が実際にXChatのセキュリティ強化に資するかどうかには疑問が残る。
※トランザクション:仮想通貨などのブロックチェーン上で行われる取引データの単位。送金や契約の記録として記されるもので、改ざん防止のために署名と検証が行われる。
セキュリティ強化の期待と懸念 仮想通貨市場は冷ややかに反応
XChatの発表に伴い、暗号資産業界やプライバシー保護技術の関係者は、その実装とセキュリティ水準への懸念を強めている。
特に、暗号化方式の根幹を示すべき技術的説明が欠如しており、「Rustで書かれたこと」と「ビットコイン的であること」がセキュリティの担保にならないという指摘が目立つ。
ミアーズ氏も、「『ビットコイン方式』や『Rust』は暗号化方式の記述ではなく、メッセージングアプリのセキュリティの強さを示す指標でもない。」と語っており、現時点ではマーケティング的な表現に過ぎないとの見方が優勢である。
一方で、XChatが提供する匿名性の高い通信や多機能なファイル共有は、ユーザーから一定の支持を集める可能性もある。
ただし、こうした機能が法的・倫理的観点で問題視される可能性も否定できない。
マスク氏率いるX社は、「everything app(すべてを網羅するアプリ)」という構想を掲げており、XChatは個人間でのやり取りを担うピースとして位置づけられている。
重要な役割を担う機能である以上、透明性や信頼性がどのように担保されるかについては、今後も市場の監視を受けることになるだろう。