AIアバターがニューヨーク州最高裁で主張も却下 司法とAIの新たな摩擦

2025年3月26日、米ニューヨーク州最高裁判所控訴部の法廷において、AIアバターが訴訟を主張するという前例のない出来事が発生した。
裁判官はこれを受け入れず、法廷とAI技術の関係が改めて問われている。
AIアバターによる訴訟主張
事件の舞台はニューヨーク州最高裁判所控訴部、日付は2025年3月26日。
原告であるジェローム・デウォルド氏が、自身の雇用紛争に関する訴訟が行われていたが、法廷に提出したのは本人ではなく、AIによって生成されたアバターだった。
スーツを着た若々しい外見のアバターが「私は謙虚な事故弁護人としてここに来ました」と話し始めると、法廷内には一時的な静寂が走った。
しかし裁判官はすぐにこのアバターが実在の人物ではないことに気づき、驚きとともに不快感を示した。
特に問題視されたのは、事前にアバター使用の通告がなかった点である。裁判官は「誤解を招く行為であり、法廷手続きの根本を揺るがしかねない」と強い懸念を示した。
結果として、このアバターによる訴訟主張は正式には受理されなかった。
後日、デウォルド氏はこの行為について謝罪し、理由として「自身の発話が不明瞭であるため、AIを通じてより明確に主張を伝えたかった」と説明した。
意図は明確であっても、法廷の伝統と規則に挑む形となったこの行動は、多くの法曹関係者の間で物議を醸している。
今後求められる制度設計
AI技術が法廷に持ち込まれた事例は今回が初ではない。
2023年には、AIツールを使用して虚偽の判例を引用した弁護士が罰金を科された事件があった。司法現場へのAIの導入が難しいことの一例と言えよう。
一方で、アリゾナ州最高裁判所では、AI生成のアバターを用いて判決を一般市民にわかりやすく伝えるためのプロジェクトが公式に進められている。
技術の進歩により、AIの活用は拡大しているため、司法においてもその恩恵を受ける可能性は高いだろう。
ウィリアム&メアリー法科大学院のダニエル・シン教授は、「(司法現場における)AIアバターの利用は時間の問題であり、避けられない進展だ」と語る。
ただし、今回のケースでは、「実在性」や「責任の所在」といった問題が改めて浮き彫りになった。
虚偽や不正操作、あるいは責任回避の手段としてAIが悪用される懸念が、改めて示されたと言えるだろう。
さらに、場合によっては司法の「権威性」にも影を落としかねないと思われる。
裁判所は、形式や儀式性を通じて法の権威を担保している側面がある。
人間ではない存在が堂々と立ち現れることは、制度の信頼性を揺るがす可能性が否定できない。
いずれにせよこの事件は、AI技術が司法の公正性や権威にどのように影響するのか、改めて問い直す契機となるだろう。
今後、アバターやAIによる発話がどのように扱われるべきか、明確な規定と指針が求められる段階に来ている。
AI技術の可能性は確かに広がっているが、制度設計が追いつかなければ混乱を生むだけだろう。今後の議論と立法の動向に注目が集まる。