オプテージなど3社、「量子セキュアデータ通信」の実証に成功 量子時代の安全基盤構築へ前進

2025年3月28日、株式会社オプテージ、東芝デジタルソリューションズ株式会社、フォーティネットジャパン合同会社の3社は、量子鍵配送(QKD ※1)と耐量子計算機暗号(PQC ※2)融合した「量子セキュアデータ通信」の実証実験に成功したと発表した。
これは、量子コンピューターの脅威に備えた新たなセキュリティ基盤の確立に向けた大きな一歩といえる。
量子鍵配送と耐量子暗号を融合、冗長構成で高い安全性と可用性を実証
今回の実証は、QKDとPQCを組み合わせた新たなセキュリティ通信方式の有効性を検証するものだ。
実験は2024年9月から2025年1月にかけて実施され、拠点間距離は約32km。東芝デジタルソリューションズが提供するQKDシステムと、フォーティネットジャパンの次世代ファイアウォール「FortiGate」、そしてオプテージの自社光回線を活用して構築された。
QKDは、量子力学の原理により盗聴の有無を検出できる特徴を持つ。一方で、回線障害や長時間にわたる攻撃によって鍵の生成が停止するリスクも存在する。
これを補うのが、現在のコンピューターでも動作可能であり、量子攻撃にも耐えるPQCの存在だ。PQCは暗号強度が高く、QKDの欠点を補完する役割を果たす。
今回の実験では、この2つの暗号技術をアクティブ/スタンバイ構成で冗長化し、QKDが使用不可となった場合には自動的にPQCに切り替えるシステムを構築した。これにより、セキュリティレベルを落とすことなく、通信の可用性と安定性を同時に実現している。
特に注目されたのは、ブロックチェーンノード運用における秘密鍵情報の通信においても、安全性と安定性が保たれた点だ。長時間にわたる大容量データの転送でも、通信品質に支障は見られなかった。
この結果は、量子セキュアデータ通信が実用レベルに近づいていることを裏付ける材料と言える。
量子時代の情報インフラ構築に向け、実用化への鍵は「冗長化」と「適応力」
量子コンピューターの登場により、従来の暗号技術は将来的に破られるリスクが指摘されてきた。
これに対抗する形で、QKDやPQCといった量子耐性を持つ技術の研究・開発が国内外で進められている。特に今回のように、異なる技術を冗長的に組み合わせるアプローチは、将来的な技術の成熟度や攻撃手法の多様化に対応する柔軟性を持つ点で重要とされている。
冗長化は単なるバックアップ手段ではなく、実運用においても不可欠な設計思想となる。QKDが使えない環境下でも即座にPQCに切り替えられる体制は、サービスの停止を回避しながらセキュリティ水準を維持できる点で評価されている。
今後、3社はこの実証結果を踏まえ、さらなる課題の洗い出しや技術改良を進め、量子セキュア通信の早期実用化を目指す見通しだ。
社会全体がWeb3や分散型ネットワークへと進化する中で、こうした安全基盤の整備は不可欠なステップであり、将来の通信インフラのコア技術として期待が高まっている。
※1 量子鍵配送(QKD:Quantum Key Distribution):量子力学の原理を応用し、光子を使って暗号鍵を共有する技術。盗聴が試みられると通信の性質が変化するため、セキュリティ面で優れている。
※2 耐量子計算機暗号(PQC:Post Quantum Cryptography):量子コンピューターによる攻撃に耐えるよう設計された新世代の暗号技術。既存のコンピューターでも運用可能で、将来の量子脅威への備えとなる。