プロンプトで世界を作って探検する時代へ|Google「Project Genie」の全体像

Googleは、文章や画像の指示から「世界」を作り、すぐにその中を歩いたり飛んだりして探索できる研究プロトタイプ「Project Genie」を公開しました。探索中も周囲の風景がリアルタイムで生成され、森や街、未知の景色まで幅広い雰囲気を作れます。
遊ぶ前に指示や画像を直して作り直せる点も特徴です。現時点では米国のGoogle AI Ultra加入者向けの提供が案内されているため、本プロジェクトの詳細を考察します。
Googleが提示した「世界モデル」という新しい考え方

Googleが公開したProject Genieは、従来の生成AIとは少し異なる位置づけにあります。文章や画像をもとに映像を作るだけでなく、「中に入って動き回れる世界」そのものを生成する点が特徴です。利用者は最初に簡単な文章や参考画像を与え、キャラクターや移動方法を選ぶだけで、その世界に足を踏み入れられます。歩く、走る、飛ぶといった行動に合わせて、周囲の景色がその場で広がっていきます。
この仕組みは、あらかじめ全体を作り込む従来のゲームや映像制作とは発想が異なります。Project Genieでは、探索が進むにつれてAIが必要な風景や物理表現を次々に生み出します。つまり「完成した世界」を用意するのではなく、「動きに応じて成長する世界」を体験する形です。このため、同じ指示から始めても、動き方や視点によって体験が変わると考えられます。
また、生成前に指示文や画像を調整し、雰囲気を細かく詰められる点も重要です。森を静かにしたいのか、活気のある街にしたいのかといった方向性を事前に整えたうえで探索を始められます。こうした設計から、Project Genieは単なる娯楽用のデモではなく、「AIが環境を理解し、連続した空間を保ちながら生成できるか」を試す研究的な取り組みだと読み取れます。
Google公式 Project Genie ページ:https://labs.google/projectgenie
リアルタイム生成がもたらす体験の変化
Project Genieのもう一つの注目点は、「リアルタイムで世界が作られ続ける」という点です。これは見た目の新しさだけでなく、体験の質そのものを変える要素になります。ここでは、その特徴を3つの観点から整理します。
行動に応じて変わる景色の一貫性
Project Genieでは、利用者の移動や操作に合わせて、周囲の地形や背景が自然につながるように生成されます。単発の映像生成ではなく、歩いた道の続きや視点の変化を踏まえて次の景色が描かれるため、空間に連続性が生まれます。例えば山道を進めば、急に平地に切り替わるのではなく、傾斜や足跡の流れを保ったまま風景が広がります。この仕組みは、AIが直前の状況を記憶しながら世界を構築していることを示しています。結果として、探索中に違和感を覚えにくく、実際にその場に存在しているような感覚につながると考えられます。
物理表現を含んだ世界づくり
公開されているデモでは、水の動きや物体の反応など、簡易的ながら物理表現が取り入れられています。波に乗ると進み方が変わったり、地面の素材によって動きが重く感じられたりする点が確認できます。これは、見た目だけを作るAIではなく、「触れたときの反応」まで含めた世界生成を目指していることを示しています。こうした表現が積み重なることで、操作と結果の関係が理解しやすくなり、遊びとしての納得感も高まります。研究段階ながら、将来的な応用の幅を感じさせる要素です。
毎回異なる体験が生まれる仕組み
Project Genieは、同じテーマや設定から始めても、行動次第で異なる体験になる点が特徴です。進む方向を変えるだけで景色や展開が変わり、探索の結果も一つに定まりません。この性質は、決められたルートをなぞる体験とは対照的です。利用者自身の選択が、そのまま世界の形に影響するため、「一度きりの体験」として記憶に残りやすくなります。AIが即興的に対応する仕組みがあるからこそ、繰り返し試しても新鮮さが保たれると考えられます。
多様なデモ世界から読み取れる技術の方向性

Project Genieでは、公式ページ上で多数のサンプル世界が公開されています。これらは単なる見せ方の違いではなく、Googleがどのような能力をこの世界モデルに持たせようとしているのかを読み解く手がかりになります。ここでは、デモから見えてくる技術的な方向性を3つの視点で整理します。
視点と操作主体を自由に切り替えられる設計
公開されている世界では、動物や乗り物、抽象的な物体など、操作する主体が毎回異なります。犬の視点で草原を走る世界もあれば、車として地面を駆け抜ける世界もあります。これは、人間型キャラクターを前提にしない柔軟な設計を示しています。視点の高さや動きの重さ、操作感が変わっても世界が破綻しないことから、空間とキャラクターを分離して理解する仕組みが組み込まれていると考えられます。将来的に、用途に応じて視点や操作対象を切り替える基盤として発展する可能性が見えます。
素材感や質感まで表現しようとする試み
粘土でできた世界や、フェルトのレース場、木製の作業台を巨大化した空間など、デモには独特の質感を持つ世界が含まれています。これらは色や形だけでなく、「柔らかそう」「重そう」といった印象まで含めて表現されています。見た目の統一感が保たれている点から、AIが単にオブジェクトを並べているのではなく、素材ごとの雰囲気を世界全体に反映していることがうかがえます。こうした表現は、デザイン検討や空間イメージの共有といった用途にも応用できる可能性があります。
記憶を前提とした世界の連続性
一部のデモでは、足跡や移動の痕跡が残る様子が示されています。これは、過去の行動を踏まえて次の生成が行われていることを意味します。毎回リセットされる世界ではなく、「さっき何をしたか」を覚えたまま進行する点が特徴です。この仕組みが発展すれば、探索の積み重ねが意味を持つ体験につながります。世界が一時的な映像ではなく、時間軸を持った空間として扱われていることが、Project Genieの大きな特徴だと言えます。
研究プロトタイプとして位置づけられた理由
Project Genieは、完成した製品として提供されているわけではなく、あくまで「研究段階のプロトタイプ」と明記されています。この点は非常に重要です。現在のProject Genieは、安定した長時間利用や商用活用を前提としたものではなく、世界モデルという考え方がどこまで成立するのかを検証する役割を担っています。実際、アクセス方法も限定されており、誰でも自由に使える状態ではありません。
こうした位置づけから、Googleはまず技術的な可能性を広く示し、研究者や開発者、クリエイターに対して「次に何ができそうか」を考える材料を提供していると考えられます。世界を一度に完成させるのではなく、行動に応じて生成し続けるという発想は、計算負荷や制御の難しさも伴います。そのため、現段階では実験的な公開にとどめ、反応や知見を集めている段階だと読み取れます。
また、Project Genieは単独のサービスというより、将来的な技術基盤の一部としての意味合いが強いと見られます。検索、教育、シミュレーション、エンタメなど、応用先は幅広く想定できますが、それらを語る前に「AIは連続した世界をどこまで理解できるのか」という根本的な問いに向き合っている段階です。研究プロトタイプという形を取ることで、期待値を適切に調整しつつ、次の進化へつなげる狙いがあると言えるでしょう。
今後の展望
生成AIの進化は、文章や画像を作る段階から「体験そのものを生み出す」段階へと移りつつあります。Project Genieは、その流れを象徴する研究プロトタイプと言えます。探索しながら世界が形づくられるという特性は、これまでのデジタル体験の前提を大きく変える可能性があります。ここでは、Project Genieの特性を踏まえ、今後どのような活用や発展が考えられるのかを3つの視点から整理します。
教育・学習分野への応用可能性
Project Genieの世界生成は、知識を「読む」「見る」だけでなく、「歩いて理解する」学習体験につながる可能性があります。例えば地理や自然環境の学習では、文章や写真では伝わりにくい地形の広がりや距離感を、実際に移動しながら体感できます。歴史教育においても、特定の時代や地域を再現した空間を探索することで、出来事の背景を立体的に理解しやすくなります。
重要なのは、あらかじめ決められた教材ではなく、学習者の行動に応じて環境が変わる点です。興味を持った方向へ進むことで、新しい情報や気づきが生まれ、受け身ではない学びにつながります。現段階では研究用途ですが、将来的には「体験型デジタル教材」の基盤として活用される可能性があると考えられます。
シミュレーションと意思決定支援への展開
Project Genieが示す世界モデルは、娯楽用途にとどまらず、シミュレーション分野への応用も想定できます。都市設計や災害対策、交通の流れなど、現実世界では試しにくい状況を仮想空間で再現し、行動の結果を確認する用途です。リアルタイム生成であるため、想定外の動きや選択にも柔軟に対応できる点が強みになります。
例えば、ある判断をした場合に周囲の環境がどう変わるのかを、その場で体験できます。数値やグラフだけでは理解しにくい影響を、空間的な変化として把握できる点は大きな利点です。研究段階ではありますが、「結果を予測するAI」ではなく「結果を体験させるAI」への発展が期待されます。
クリエイティブ制作の発想支援ツールとして
Project Genieは、完成品を作るツールというより、発想を広げるための素材生成エンジンとしての価値も持っています。ゲームや映像、空間デザインの分野では、世界観の初期案を考える段階が大きな負担になります。文章や画像から即座に歩ける世界を作れる仕組みは、その負担を大きく減らします。
制作者は細部を完璧に決める前に、雰囲気やスケール感を体験しながら方向性を調整できます。実際に動いてみて違和感があれば、指示を直して再生成するという試行錯誤が可能です。こうした使い方は、アイデア出しやプロトタイプ制作と相性が良いと考えられます。将来的に制作現場へ組み込まれれば、企画初期のスピードと質を同時に高める存在になる可能性があります。












