NVIDIAとInfineon、800V電力供給でAIデータセンターに革新 業界初の高圧直流アーキテクチャ

2025年5月20日(ドイツ時間)、独Infineon Technologiesは米NVIDIAと提携し、次世代AIデータセンター向けの800V HVDC(※)電力供給アーキテクチャを開発すると発表した。これにより、AIサーバの電力効率と拡張性を抜本的に向上させる構想が明らかになった。
800V HVDC採用でAIサーバの配電効率を最適化
InfineonとNVIDIAは、AIデータセンターにおける電力供給の課題に対応するため、800V HVDCの集中配電方式を採用した新アーキテクチャを共同開発しているという。
従来のAIデータセンターでは、サーバラック内において多数の電源ユニット(PSU)が必要とされていたが、AI用途ではすでに10万個以上のGPUが稼働しており、より効率的かつ持続可能な配電方式が求められていたと考えられる。
今回のHVDCシステムでは、サーバボード内のAIチップ(GPU)まで電力をダイレクトに供給可能となり、配電のロスを抑えつつエネルギー効率を飛躍的に高めることができるという。
Infineonは、今後10年でITラックあたり1メガワット超の電力が必要とされるとの見通しを示し、高密度多相電源とHVDCを組み合わせることで「業界標準を塗り替える可能性がある」との見解を述べている。
次世代AIインフラの鍵は電力供給 持続可能性と性能を両立へ
今回の協業で焦点となるのは、スケーラビリティとサステナビリティの両立であると考えられる。
InfineonのPSS事業部プレジデントであるAdam White氏は「グリッドからコアまでの電力最適化とNVIDIAのAI性能の融合が、より高速で効率的かつスケーラブルなAIインフラストラクチャを実現する」と強調している。
NVIDIA社のGabriele Gorla副社長も、「新たな800V HVDCアーキテクチャは、高信頼かつエネルギー効率の高いインフラを実現し、次世代AIワークロードへの対応と持続可能な運用の両立を支援する」とコメント。特に高負荷な生成AIや推論タスクの増加を背景に、電力消費の最適化は急務となっていると考えられる。
HVDCの採用により、再生可能エネルギーとの親和性も高まり、脱炭素化を進める企業にとっても魅力的な選択肢となるだろう。
Infineonは、SiC(炭化ケイ素)やGaN(窒化ガリウム)など先進パワー半導体の技術力を生かし、データセンターの省電力化をリードするとしている。
一方、800Vという高電圧を安全に運用するためには、専用のインフラ整備と厳格な安全基準が求められると考えられる。そのため、既存の低圧配電設計に基づいたデータセンターでは、大規模な設計変更が必要となる可能性があるだろう。
今後は、InfineonとNVIDIAのようなリーディング企業が実証ベースで成功事例を積み重ね、それを他社が追随する構図が現実的であると考えられる。
※HVDC(高電圧直流):High Voltage Direct Currentの略。送電損失を抑えながら長距離・高出力の電力供給を可能にする方式で、大規模施設の電力配電に適している。