NTT、NTTデータグループを完全子会社化 投資総額2.3兆円でAI成長戦略を加速へ

2025年5月8日、日本電信電話株式会社(NTT)は、NTTデータグループを完全子会社化する方針を正式に発表した。
約2.3兆円の巨額取引により、AIやDX分野の成長を見据えた体制強化を図る構えだ。
完全子会社化の狙いと背景
NTTとNTTデータグループはこれまで親子上場の関係にあり、経営判断における独立性や利益相反の問題が常に指摘されてきた。
今回の完全子会社化は、そうした構造的課題を根本から解決するための措置として位置づけられている。
NTTは現在、NTTデータグループの株式の57.73%を保有しているが、今回の発表では、残る42.27%についても1株あたり4,000円で公開買付(TOB)を実施する予定である。
この取引全体の規模は約2.3兆円に達し、国内でも稀に見る大規模なM\&Aとされている。
NTTが目指すのは、グループ全体での経営資源の一体運用と迅速な意思決定体制の確立だ。
NTTデータグループは現在、法人向けサービスを主力とし、2024年度の売上高は4.6兆円を見込んでいる。
特にデジタルトランスフォーメーション(DX)やAI、データセンターなどの分野に強みを持ち、グローバル市場においては、確かな存在感を放っている。
今回の完全子会社化によって、これらの成長領域に対する投資判断を迅速化し、NTT本体と一体となったサービス提供が可能となる。
成長加速に向けた注力領域と今後の展望
NTTは今回の完全子会社化を機に、グローバルソリューション事業の中核にNTTデータグループを据える戦略を明確に打ち出している。
とりわけ北米市場での競争激化を背景に、AIを活用した次世代サービスの強化や、大規模法人向けソリューションの統合提供が急務とされている。
今後、NTTデータグループは「Digital & Experiences」「Next-Gen Infra」「Agentic AI」といった注力領域に対し、積極的な成長投資を行っていく見通しである。
中でもデータセンター分野は、2023年度から2027年度にかけて1.5兆円以上を投資する計画が進行中であり、再生可能エネルギーや液冷技術を導入した環境対応型施設の建設も予定されている。
また、AI基盤として独自開発した「tsuzumi」や、次世代通信規格IOWN(※)との連携によって、業務プロセスの自動化や顧客体験の最適化といった複合的なソリューション展開が期待されている。
社長の島田明氏は、完全子会社化によりグループ全体の意思決定スピードが大きく向上し、変化の激しいAI・DX市場において先手を打つことができると語る。
また、「特にデメリットはない」と断言しており、長期的な視点から見たグループ価値の最大化に自信を見せている。
今後は、M\&Aを含めた資本戦略も加速する可能性があり、NTTグループが描くAI時代の競争地図において、NTTデータの役割は一層重要性を増すだろう。
※IOWN(Innovative Optical and Wireless Network):NTTが推進する次世代通信インフラ。光技術を活用し、従来の通信網に比べて大容量・低遅延・低消費電力を実現することを目指す。