【2025年12月】内閣府のAI新戦略「人工知能基本計画（案）」

2025年12月に公表された「人工知能基本計画(案)」では、国内のAI活用を進めるために必要な基盤づくりや、安心して使える社会環境の整備が示されています。技術開発だけでなく、人材育成、データ利活用、倫理・安全性の確保など、幅広い取り組みが求められており、国としての方向性がより明確になったことがうかがえます。

本記事では、この計画が示す狙いや政策の位置づけを整理し、これからの社会にどのような影響を与えるのかを考察するため、本プロジェクトの詳細を考察します。

急速に広がるAI活用の必要性と国家戦略の重要度

日本ではAIの活用が急速に進み、日常生活から産業まで幅広い分野でその存在感が高まっています。特に近年は、大規模モデルの発展によりAIが扱える情報量や処理能力が大きく向上しており、社会の仕組みそのものに影響を与える段階に入りつつあります。こうした状況を受け、国としてAIを安全に使いながら競争力を高めるための政策づくりが求められています。

基本計画(案)では、社会課題の解決にAIを生かしつつ、安心して使える環境を整えることが重要であると示されています。研究開発、人材育成、データの利活用、国際連携など、多方面の取り組みを組み合わせて前進させる姿勢が見られます。また、急速な技術進化によりリスクが拡大する可能性もあるため、安全性の確保や透明性の向上を重要視している点も特徴です。AI技術を持続的に発展させるためには、技術だけでなく社会制度との調和が欠かせないという視点が示され、国家全体で取り組む必要性が強調されていると言えます。

参考：内閣府 人工知能基本計画（案）
https://www8.cao.go.jp/cstp/ai/ai_plan/aiplan2025_draft4.pdf

AI活用を広げるために求められる政策の方向性

人工知能基本計画(案)では、日本が幅広い分野でAIを安全かつ効果的に活用するために、複数の政策領域を組み合わせて進める必要があると示されています。産業の競争力向上だけでなく、行政サービスの質の向上や、社会課題への対応まで視野に入れている点が特徴です。AIを支えるデータや人材の整備はもちろんのこと、技術への信頼を確保する枠組みも重視されています。ここでは計画案が重視する3つの政策方向について整理します

産業・社会の幅広い分野でのAI利活用を進めるための基盤整備

計画案では、AIを産業界だけにとどめず、医療、教育、農業、防災、行政サービスなど、幅広い領域に浸透させるための基盤整備を重視しています。分野ごとのニーズに応じたデータ環境を整えることが重要であり、データが連携しやすい仕組みづくりや、匿名加工データの活用を支える制度の整備が必要とされています。また、中小企業がAIを導入しやすくするための環境づくりも欠かせないとされており、技術的な支援や適切なガイドラインの提供などが求められています。AIの導入により作業の効率化が進むだけでなく、人手不足などの社会課題に応える形で生産性向上が期待されている点も計画案の特徴です。分野横断の連携を進めることで、より広い地域や産業へAIの恩恵を届けることを目指しています。

研究開発力の強化と国産モデルの発展を支える仕組み

AIモデルの高度化に伴い、研究開発の基盤を強化することは欠かせません。計画案では、大規模モデルの開発を支える計算資源の確保や、研究者間の協力体制の強化が必要とされています。日本が国際競争の中で存在感を維持するためには、独自技術の育成が重要であり、国産モデルの発展を後押しする政策が求められています。また、学術界と産業界、政府機関が協力して研究データを共有し、成果を社会に還元する体制づくりも焦点のひとつです。安全性や品質管理のために必要な評価基盤の整備についても具体的な方向性が示されており、研究成果を安心して社会で活用できる環境を整えることが不可欠とされています。こうした総合的な取り組みにより、国内のAI研究が継続的に発展する土台づくりを目指しています。

AIを安心して利用できる社会環境の構築

AIの普及が進むほど、安全性や信頼性を確保するための環境整備が重要になります。計画案では、AIの透明性を高めるための指針づくりや、誤った情報の拡散を防ぐためのリスク管理体制を整える必要性が示されています。利用者が安心してAIを使えるためには、技術への理解を深める教育も欠かせないとされており、学校教育や社会人学習の中でAIリテラシーを育てる取り組みも含まれています。また、生成AIの悪用防止やセキュリティ対策など、社会全体の安全を守るための施策も重視されています。国際的なルールづくりに参加し、他国と連携して基準を整えることも、日本の信頼性を高めるうえで不可欠です。AIが社会のいたるところで活用される時代だからこそ、技術のメリットだけでなく安心・安全の確保が重要だとしています。

AI時代に対応した社会制度と人材育成の方向性

人工知能基本計画(案)では、AIを単に導入するだけではなく、社会全体がその変化に対応できる体制を整えることが重要だとされています。特に、制度の見直しや教育体制の強化は、技術の進展に合わせて社会が持続的に成長するための基盤となります。ここでは、制度改革、人材育成、そして国際連携という3つの観点から、計画案に示されている方向性を整理します。

技術進展に合わせた柔軟な制度のアップデート

AI技術は急速に進化しており、制度がその変化に追いつくことが社会的な課題となっています。計画案では、行政手続きのデジタル化やデータ利活用を促し、AIが活用しやすい制度環境を整える必要があると示されています。また、AIが新しい価値を生む一方で、誤情報の拡散や悪用リスクも懸念されるため、これらに対応するためのルールづくりも欠かせません。制度を硬直的に維持するのではなく、社会情勢や技術の進歩を踏まえ、柔軟に見直す姿勢が求められています。これにより、AIの社会実装が円滑に進むだけでなく、利用者が安心して技術を取り入れられる環境にもつながると考えられます。

AIを扱える人材の育成と学習機会の拡大

AIが幅広い分野で活用されるようになるほど、それを扱える人材の育成が欠かせません。計画案では、初等教育から高等教育、社会人教育まで、それぞれの段階で必要なリテラシーを育てる仕組みを整えることが重要とされています。特に、子どもたちが早い段階からデータやAIに触れられる学習環境を整備することは、将来のデジタル社会を支える基盤づくりにつながります。また、社会人が学び直しを行える環境の整備も重要で、AI技術に関わらない職種であっても基本的な知識が求められるようになるため、学習機会の確保が必要です。人材育成を広く支えることで、技術の進展と社会の成長が連動して進む土台を築くことができます。

国際的なルール形成への積極的な参加

AIは国境を超えて影響を与える技術であるため、国際協調は不可欠です。計画案では、日本が国際的な議論に積極的に参加し、信頼できるAIのルールづくりに寄与することが求められています。海外の研究機関や企業との連携を深め、技術開発や評価手法を共有することは、国内のAI技術の品質向上にもつながります。また、国際基準に基づいたガバナンスを整備することで、日本のAIが海外市場でも信頼を得られるようになる効果も期待されます。国際連携は単に協力するだけでなく、日本が主体的に貢献することが重要であり、技術面・政策面の両方から参画する姿勢が欠かせないとされています。

AI社会を支える仕組みづくりと実行体制の強化

人工知能基本計画(案)では、AIの導入や研究開発を進めるだけでなく、それらを確実に実行し成果につなげるための体制づくりが不可欠だと示されています。技術の進展は速く、社会への影響も大きいため、政策を継続的に見直しながら進める柔軟な運営が求められています。具体的には、政府内の連携強化や関係機関との協働を深め、施策が重複したり遅れたりしないように調整する仕組みが必要とされています。

また、計画の進捗を定期的に評価し、必要に応じて優先順位や取り組み内容を更新していくことも重要です。民間企業や大学、自治体など多様な主体が関わるため、情報共有の仕組みや支援プログラムの充実も求められています。これらの体制が整うことで、個々の施策が独立して進むのではなく、社会全体で連動しながらAI活用が広がっていく流れを生み出すことが期待されています。

今後の展望

AIの活用が広がる中で、社会や産業のあり方はこれまで以上に変化し続けると考えられています。人工知能基本計画(案)は、その方向性を示す基盤として重要な役割を持ち、今後の取り組みに大きく影響すると見られています。本章では、この計画案の内容を踏まえ、これからの日本社会でどのようなAI活用が進む可能性があるのかを3つの観点から整理し、より実践的な未来像を考察します。

自治体・行政サービスへのAI統合の加速

今後は、自治体や行政機関がAIを積極的に活用し、住民サービスの質を高める取り組みが加速すると考えられます。人工知能基本計画(案)では、行政手続きの効率化や住民向けサービスの改善を重要なテーマとして位置づけており、これを実現するためのデータ連携基盤や業務支援AIの推進が求められています。今後は、単に作業を自動化するだけでなく、地域ごとの課題を把握し、改善策を提案できる形でAIを使う自治体が増える可能性があります。たとえば、災害対応のシナリオ作成、交通の混雑予測、子育て相談の分類補助など、行政の幅広い領域でAIが補助役として機能する未来が期待されます。また、自治体間でのデータ共有が進むことで、地域差によるサービス格差を減らし、より公平な公共サービスの提供につながることも予測されます。こうした動きが社会全体の効率向上にも結びつき、行政が持つ情報を最大限に活用できる体制づくりが重要になると考えられます。

日本独自の大型AIモデルと産業連携

計画案で示されたように、計算資源や研究開発体制の強化は、日本がAI技術を自立的に発展させるうえで極めて重要です。今後は日本独自の大規模AIモデルの開発が進み、産業界との連携がより深まると見込まれています。特に製造業、医療、物流、エネルギーといった日本が強みを持つ分野では、産業特化型の国産モデルが開発され、精度向上や効率改善への貢献が期待されます。また、企業や研究機関が協力してデータを共有する動きが進めば、国産モデルの学習環境が改善され、社会や現場の状況をより正確に反映したAIが生まれる可能性があります。さらに、安全性評価や透明性確保の基準が国として整備されていけば、日本発の技術が海外でも評価される場面が増え、競争力の向上につながると考えられます。こうした産業と研究の相互強化が、日本のAI技術を持続的に発展させる鍵となります。

AIリテラシーの普及と学習社会の実現

AIが生活のあらゆる場面に浸透していく中で、一般の人々がAIを理解し使いこなす力を身につけることがますます重要になります。計画案で示されているように、学校教育から社会人教育まで幅広い世代に向けて学習機会を提供することが求められています。今後は、単純な知識習得にとどまらず、AIとどのように向き合うか、情報をどのように見極めるかといった思考力を育てる教育が主流になると考えられます。また、オンライン学習環境が整うことで、働きながら学び直すことが容易になり、年代を問わずAIを理解する層が増える可能性があります。これにより、企業や自治体でのAI導入も進みやすくなり、社会全体のデジタル活用能力が底上げされることが見込まれます。AIが身近な存在になるほど、個人が主体的に学んでいく姿勢がこれまで以上に重要になり、学習社会としての成熟が期待されます。