企業ビジュアルを生成AIで制作 ムサシが社内コンテストで採用、広告やIR資料にも活用

2025年6月3日、愛知県豊橋市にある自動車部品メーカーの武蔵精密工業(以下、ムサシ)は、コーポレートサイトのキービジュアルを生成AIで制作したと発表した。
外注をやめ、社内公募と社員投票によって選定された作品を各種広報資料に活用する方針だ。
社内コンテストで生成AI作品を選出、経営層も投票に参加
ムサシは、グローバル全拠点の社員から生成AIを使った作品を募り、新たなキービジュアルとして採用した。
同社は従来、外部デザイナーに制作を委託していたが、今回は社内コンテスト形式を採用。経営層から社員までが投票し、最終的に経営企画室の社員が手がけた作品が選ばれた。
採用作品のタイトルは「The quickening of light ~光の加速 光の胎動~」。
赤・青・黄・紫のラインを用い、変化の激しい時代を力強く進む企業姿勢を表現したという。
制作にあたった社員は「描きたいイメージさえあれば、生成AIというテクノロジーを活用することで具現化できることを体現できたイベントでした」とコメントした。
このビジュアルは、Webサイトのトップページをはじめ、株主総会招集通知、社内外の広告、資料など幅広い媒体に展開される予定である。
作品公募のテーマは「もうひとつのムサシづくり」で、アジア・中国・北米地域などから40点以上の応募が集まった。
これに先立ち、同社は前年度にも国内社員約200人が参加した「生成AIアートコンクール」を開催しており、社内でのAI活用を加速させている。
創造業務の内製化進む AI活用リテラシー向上にも期待
今回の取り組みは、デザイン業務の内製化とAI活用の両立を実現する一例といえる。
外注依存を減らすことでコスト削減が期待できるだけでなく、社員自らが企業のブランド価値を考える機会にもつながるだろう。
特に、経営層も巻き込んだ投票プロセスを通じて、組織全体での一体感醸成にも寄与したとみられる。
一方で、生成AIのクリエイティブ活用には品質や著作権に関する課題も残る。
表現力の精度や独自性の担保、第三者の著作物と類似するリスクへの配慮が必要となるだろう。
ムサシのように実務に落とし込む企業が増えれば、今後は業界全体でのルール形成や教育プログラムの整備も進む可能性がある。
ムサシのような取り組みは、今後、製造業を含む幅広い業種に波及していくと見られる。
デザインに限らず、企画書、広告、社内教育資料など、視覚的要素を持つ業務の内製化が進行する見通しである。
特にグローバル企業においては、各拠点の多様な感性を反映させることで、よりユニークな企業文化の表出にもつながるだろう。