2026年5月21日、米カリフォルニア州のギャビン・ニューサム知事は、AI普及による雇用喪失への対応を進めるため、全米初となる知事令に署名した。失業保険や再教育支援に加え、「ユニバーサル・ベーシック・キャピタル」など富の再分配策まで含む内容で、AI時代の社会制度見直しが現実味を帯びている。
AI失業支援へ 州が制度改革検討
今回の知事令では、AI導入によって解雇された労働者への支援策を州政府に検討させる。対象には、失業保険の拡充や再就職支援、職業転換プログラムなどが含まれる。
さらに注目されているのが、従業員持株会の普及や「ユニバーサル・ベーシック・キャピタル(※)」の検討である。これは一部の巨大テック企業だけに富が集中する状況を是正し、市民全体が資本収益を共有できる仕組みを目指す考え方だ。
カリフォルニア州は世界のAI産業の中心地でもある。州の声明によれば、世界の民間AI企業トップ50社のうち33社が同州に拠点を置いているという。生成AIの急速な普及により、事務、カスタマーサポート、プログラミングなど幅広い業務で自動化が進みつつあり、州政府も雇用構造の変化を無視できなくなった形だ。
ニューサム知事は声明で、「今こそ、働き方や統治のあり方を含め、システム全体を再構築することが求められている」と述べた。
単なる雇用対策ではなく、AI時代の社会制度そのものを見直す姿勢を打ち出した点に特徴がある。
※ユニバーサル・ベーシック・キャピタル:企業や社会全体が生み出す資本利益の一部を、市民全体へ分配する考え方。現金給付を中心とするベーシックインカムと異なり、「資本保有」を通じた継続的な資産形成を重視する。
AI利益共有時代へ進む可能性も
今回の動きは、AIによる生産性向上の恩恵を誰が受け取るべきかという議論を加速させることになるだろう。従来は企業利益や株主価値の最大化が重視されてきたが、AIによる大規模自動化が進めば、雇用減少とのバランスが政治課題として浮上するからだ。
実際、巨大テック企業Metaは20日、AI投資拡大を理由に約8000人を解雇した。今後も同様の動きが広がれば、「AIが富を生み、人間の仕事が減る」という構図がさらに鮮明になると考えられる。
一方で、企業側からは過度な規制や負担増への警戒感も強い。富の再分配政策が拡大すれば、AI企業の投資意欲低下や州外移転を招くリスクもある。特にカリフォルニア州は世界有数のテック集積地であり、規制強化とイノベーション促進の両立は極めて難しい課題となる。
それでも、AIによる雇用変化を前提に制度設計を始めた点は大きい。カリフォルニア州がAIを単なる技術革新ではなく、社会構造を変える存在として扱い始めたことで、各国政府の政策議論にも影響を与える可能性がある。