マレーシア、米AI半導体の輸出規制を即日施行 積み替え・通過も対象に

2025年7月14日、マレーシア投資貿易産業省が、米国製の高性能AI半導体について、輸出・積み替え・通過のいずれにも事前の貿易許可を義務付けると発表した。
AI半導体の輸出・通過に許可制導入、規制の抜け穴を封じる狙い
マレーシア政府は、米国製の高性能AI(人工知能)半導体に関する新たな輸出管理措置を発表し、7月14日から即日施行した。
新たな規則では、当該半導体がマレーシアの戦略物資リストに明記されていない場合であっても、輸出・積み替え(トランシップメント)・通過(トランジット)を行うには、少なくとも30日前に当局への通知と貿易許可の取得が義務付けられる。
マレーシア投資貿易産業省は声明で「規制の抜け穴を防ぐ役割を果たす」と説明した。また、違反者には「厳しい法的措置を取る」と明言し、不正輸出や規制回避の動きに断固とした姿勢を示した。
背景には、米国からの外交的圧力があるとされる。英フィナンシャル・タイムズが今年3月に報じた内容によれば、米国は中国への先端半導体流入を防ぐため、マレーシアに対して規制強化を要請していた。
マレーシアは東南アジア最大の半導体後工程拠点として国際的な供給網の中核を担っており、中国企業が第三国を経由して半導体を取得するルートとしても注目されていた。
今回の即時施行は、こうした地政学的なリスクを踏まえた緊急措置とも言える。今後、マレーシアが米国製AI半導体を正式に戦略物資リストへ追加するかどうかが注目される。
規制強化の影響と狙い 透明性向上か、企業負担増か
今回の措置は、国際的な輸出管理体制の一環として一定の意義があると言える。
AI半導体は軍事転用や先端技術の開発に不可欠な戦略物資であり、規制を通じてその流通経路を可視化することは、安全保障上の観点から重要とされている。とくに地政学リスクの高まりを受け、供給網の透明性確保は政策的な優先事項になりつつある。
また、米国との貿易・外交関係を維持するうえでも、今回の対応は「協調的な規制姿勢」を示すシグナルと受け取れる。マレーシアが単なる中継国ではなく、責任ある技術流通国としての立場を国際的に訴求する契機にもなるだろう。
一方、企業側の事務手続きや輸送スケジュールには大きな影響が生じかねない。半導体のサプライチェーンは納期や在庫管理が厳格であり、30日前の申請義務は実務上の柔軟性を損なう可能性がある。マレーシア経由で製品を運ぶ多国籍企業にとっては、許可遅延や書類不備が物流のボトルネックとなる懸念も残る。
さらに規制強化が続く場合、中国企業などがベトナムやタイ、中東といった代替ルートへ移行する可能性もある。マレーシアにとっては、輸出管理強化と経済的魅力の維持というトレードオフをどう舵取りするかが重要になるだろう。
今回の措置は、サプライチェーンの安全保障と効率性という相反する要素の狭間で、各国が模索する「新たな標準」の端緒とも言える。マレーシアの判断が他の中継国へ波及し、国際的な技術流通管理の再編につながる可能性も視野に入るだろう。