英政府、750万人にAI教育　グーグルやMSと連携し労働力再編へ

2025年6月9日、英国のキア・スターマー首相は、労働者750万人にAIスキルを習得させる国家規模の教育計画を発表した。グーグルやマイクロソフトなどのIT大手が無償で提供する研修素材によって、英国社会全体のAIリテラシー向上が図られる。

英政府、IT大手と連携しAI研修を無償提供へ

スターマー英首相は9日、大手IT企業と協力し、国内の労働者750万人にAI教育を実施する包括的なスキル向上計画を発表した。対象には、あらゆる業種の一般労働者が含まれ、今後5年間にわたり、AIに関する研修素材が企業向けに無償で提供される。

この施策は、同政権が掲げる「テックファースト」戦略の中核をなすもので、社会全体でのAI理解を底上げすることを狙いとしている。
具体的には、チャットボットや大規模言語モデルなどの活用に重点が置かれており、業務効率化と生産性向上につながる内容となっているようだ。

さらに、英国政府は1億8700万ポンド（約366億円）を投じ、中等教育に通う生徒100万人の技術リテラシーを育成する方針も示した。この教育拡充は、地域社会へのAI導入支援とあわせて実施される見込みだ。

スターマー氏は首相官邸が公表した声明で「私たちは今、AIの力を次世代の手に委ねようとしている。彼らが未来に形づくられる側ではなく、未来を形づくる側になるためだ」と述べ、AI時代における人材育成の重要性を強調している。

労働市場再編の加速も　AI教育がもたらす光と影

英国のAI市場は現在、約720億ポンド（約14兆円）と評価されており、2035年には8000億ポンド（約156兆円）規模にまで拡大すると予測されている。
AI分野で働く人々は既に6万4000人を超えており、政府統計では他業種の30倍のスピードで成長しているという。

このような背景を踏まえると、政府が主導するAI教育は、経済の持続的成長と技術競争力の確保に寄与すると考えられる。特に、中小企業や伝統産業におけるAI導入が進めば、生産性の底上げや労働力不足の解消にもつながるだろう。

一方で、既存の職種がAIに代替されるリスクも顕在化している。
AIスキルを持たない労働者が淘汰される懸念や、再教育が追いつかない地域格差など、課題も少なくないと思われる。教育投資が実際に成果を上げるかどうかは、実施後の継続的なモニタリングと、柔軟な制度設計にかかっているといえる。

AI教育の国家的推進は、産業構造の転換と雇用の再編を促す起爆剤となる可能性があるが、そのインパクトを最大化するには、社会全体の理解と協力が不可欠と言えそうだ。