暗号資産の申告分離課税を大綱に明記 「特定暗号資産」限定で制度設計

2025年12月19日に公表された令和8年度税制改正大綱に、暗号資産の申告分離課税化が条件付きで盛り込まれた。
自由民主党と日本維新の会が示した内容で、対象は「特定暗号資産」に限る枠組みが示されている。
暗号資産の申告分離課税化を明記 対象は「特定暗号資産」に限定
19日に公開された令和8年度税制改正大綱(※)では、暗号資産取引に関する課税見直しの具体像が示された。
現在、暗号資産の売買や交換によって生じる所得は原則として雑所得に区分され、総合課税の対象となっている。
このため、所得水準によっては最大55%の税率が適用される状況にあった。
しかし今回、暗号資産を株式や投資信託などと同様に申告分離課税の枠組みへ位置づける方針が示され、税率を一律20%(所得税15%、住民税5%)とする案が掲げられた。
対象は、暗号資産の現物取引とデリバティブ取引に加え、投資信託等(ETFを含み得る投信)を通じて生じる所得も視野に入るとしている。
もっとも、分離課税化は無条件ではない。
金融商品取引法などの改正を前提とし、「暗号資産取引業(仮称)」として金融商品取引業者登録簿に登録された事業者が取り扱う「特定暗号資産」の譲渡所得等に限定される。
どの銘柄が特定暗号資産に該当するか、業者要件がどのように定義されるかについては、現段階では明らかにされていない。
加えて、特定暗号資産の現物取引で生じた損失については、一定の要件の下で3年間の繰越控除が認められる。
デリバティブ取引についても、先物取引の課税特例や損失繰越控除の対象に加える方針が示された。
一方で、対象外となる暗号資産は総合課税側で扱うことを前提とし、特別控除や損益通算の対象外とする旨も盛り込まれた。
なお、分離課税の適用開始は、関連法改正の施行後、翌年1月1日とされている。
※税制改正大綱:与党税制調査会が中心となり、翌年度以降の税制改正の方向性や検討事項をまとめた政策文書。
投資促進への期待と、線引きが残す不確実性
条件付きながら申告分離課税が明記されたことは、暗号資産投資の環境整備に向けた前進と評価できる。
税率が固定されることで、個人投資家は税負担を見通した上で投資判断を行いやすくなり、資産形成の選択肢として暗号資産を位置づける動きが強まる可能性がある。
損失繰越控除の導入も、価格変動リスクの高い市場において心理的なハードルを下げる効果が期待できそうだ。
一方で、「特定暗号資産」に限定する設計は、市場に新たな分断を生む恐れもある。
対象銘柄と対象外銘柄の税制差が大きくなれば、投資資金が特定銘柄に集中し、その他の暗号資産の流動性が低下する可能性がある。
制度の線引き次第では、イノベーションの芽を摘む結果になりかねない。
今後の焦点は、業者登録の基準や特定暗号資産の選定プロセスが、どこまで透明性を確保できるかに移っていくとみられる。
税制改正が市場の健全な成長につながるかどうかは、実務レベルでの制度設計や運用の在り方が影響すると考えられる。
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