ライオン、独自AI「転移学習モデル」で研究開発85%効率化

ライオンは独自の転移学習モデル(AI)を確立し、ボディソープの研究データを浴室用洗剤の開発に応用した。
少量データでも高精度な品質予測を可能にし、実験数を最大約85%削減。AIによる研究開発DXを加速させる動きが進んでいる。
ボディソープ研究データを応用 転移学習で開発効率の向上へ
9日、ライオン株式会社は、ボディソープ開発で得た研究データを浴室用洗剤開発に応用する独自の「転移学習モデル(AI)」を確立したと発表した。
ライオンは、生活用品開発におけるデジタル変革の一環として、研究開発領域でのAI活用を強化している。
従来は製品分野ごとに蓄積された研究データの共有が難しく、少量データでの予測精度向上が課題であった。
今回確立した「転移学習モデル」は、ボディソープの研究データから共通する特徴を抽出し、浴室用洗剤の開発に転用する仕組みだ。
このモデルにより、従来は数多くの実験を要した品質予測を、少量データでも高精度に実現できるようになった。
実測データとの照合でも高い一致率を示し、最大約85%の実験削減が見込まれる。
これにより、開発期間の大幅な短縮が期待される。
同研究は11月に開催された「第48回ケモインフォマティクス討論会」で発表され、昨年に続き「優秀ポスター賞」を受賞した。
ライオンは今後、AIによるマテリアルズインフォマティクス(※)をさらに発展させ、製品開発のDXを加速させる方針を示している。
※マテリアルズインフォマティクス: データ解析やAIを活用して、材料設計や組成開発を効率化する研究手法。
転移学習がもたらす研究開発の進化と課題
転移学習を応用したAIの導入は、研究開発の生産性を大きく底上げする可能性を秘めている。
既存データの再活用によって少量データでも高精度なモデル構築が可能となり、開発コストの削減や検証期間の短縮が期待できる。
また、AIが実験設計やシミュレーションの一部を担うことで、研究者は新素材や新概念の探索など、より創造的な領域に注力できるようになるだろう。
これにより、製品の差別化や市場投入スピードの向上が進む可能性がある。
しかし一方で、転移学習の精度は「どの領域から、どの領域へ転用するか」に大きく左右されるとみられる。
データ特性が微妙に異なる場合、モデルが過学習や誤推論を起こすリスクもあり、安易な汎用化が品質低下を招くことも考えられる。
今後は、ライオンのように複数領域でAIモデルの転用効果を実証しながら、透明性と再現性を確保する運用体制の整備が鍵を握るだろう。
研究基盤を共有しつつ、領域間のノウハウを横断的に融合することで、生活用品分野におけるAI活用は、「単なる効率化」から「知識が連鎖的に発展していく」段階へと移行していく可能性がある。
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