集英社が生成AIサービスに抗議 作家の尊厳守る「厳正対応」を表明

2025年10月31日、国内大手出版社の株式会社集英社 が、生成AIを利用した著作権侵害に関して公式声明を発表した。
社内外で問題視されていた映像類似の大量発生を受け、サービス提供者側に対し実効的な対策を要求している。
生成AI利用の類似映像に集英社が強い危機感
集英社は、2025年秋にOpenAI社の生成AI「Sora2」のリリースとともに、アニメやキャラクターなど著名コンテンツの類似映像がネット上に多数出現したことを受け、声明を公表した。
声明では、これらの映像が「AIによる学習をベースとして生成されている」と明記し、「心血を注いで作品を作り上げた作家の尊厳を踏みにじり、多くの人々の権利を侵害することのうえに成立してよいはずはありません」と強く懸念を示した。
生成AI技術の進展には、創作活動を支援・拡大する側面がある一方で、既存の著作物に類似した作品が生成されることによる権利侵害への懸念も指摘されている。
集英社は、生成AIの発展により創作が広く共有される社会は「歓迎されるべき」と言及しつつ、その過程で権利侵害が生じてはならないと強調した。
同社は、生成AIサービス提供者に対し、「オプトアウト方式(※)」以上の実効的な侵害防止策と、権利者への救済策の早急な提示を求めた。
また、生成AIの利用有無にかかわらず、自社作品の権利を侵害していると判断した場合には「適切で厳正な対応を取る」と明記されている。
※オプトアウト方式:権利者側が学習対象除外を申請しなければ、デフォルトで著作物がAI学習に利用される方式。
AI時代の創作環境、共存のルールづくりへ
集英社の声明がもたらす最大のメリットは、著作権者の立場を社会的に再定義した点にあるだろう。
これまで曖昧だったAI学習の境界線に明確な基準を示したことで、創作者の権利意識が高まり、出版社や作家が安心して創作に打ち込める環境整備が進む可能性がある。
AI開発企業にとっても、透明性の高い学習プロセスを構築するきっかけとなり、コンテンツ利用の健全化に寄与するとみられる。
一方で、権利保護を強調する姿勢は、生成AIの社会実装に一定のブレーキをかける懸念がある。
特に、データ学習の自由度が下がることで、新興AI企業やクリエイティブツールの開発が停滞しかねない。
創作支援や二次創作などの文化的活動にも波及し、ユーザー参加型の創作文化を萎縮させるリスクも考えられる。
今後は、権利保護と技術革新の折り合いをどのようにつけるかが焦点となりそうだ。
政府や業界団体がAI学習データの利用ルールを明文化し、出版社とAI企業が協議の場を設ける動きが加速するだろう。
最終的には「AIを排除する」のではなく、「共に創る」方向へと舵を切れるかが、日本のクリエイティブ産業の行方を左右すると考えられる。
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