スタンダード・チャータード、ドル連動型ステーブルコインで新興国銀行預金に1兆ドル流出懸念

2025年10月7日、英金融大手スタンダード・チャータードは、ステーブルコインが今後3年間で新興国市場の銀行預金から最大1兆ドルを吸い上げる可能性があるとする報告書を公表した。
ドル連動型資産の急拡大により、銀行システムからの資金流出が進み、新興国の金融安定を脅かす恐れがあると警鐘を鳴らしている。
新興国の銀行預金が流出危機 ドル連動ステーブルコインが拡大
スタンダード・チャータードは、米ドルに連動するステーブルコインの急速な拡大が新興国の銀行システムに大きな影響を及ぼす可能性を指摘した。
世界のステーブルコインの約99%がドル連動型であり、通貨危機の頻発する国々では「デジタル化したドル預金」として利用が広がっているという。
同行は、現在約1,730億ドルとされるステーブルコインの市場規模が2028年末までに1兆2,200億ドルへ急増すると予測。
この資金流入により、従来の銀行預金が急速に減少し、金融システムの安定性が揺らぐ懸念を示した。
とりわけ、エジプト、パキスタン、スリランカ、モロッコ、ケニアなど通貨不安が続く国々が高リスク地域として挙げられている。
さらに、トルコ、インド、中国、ブラジル、南アフリカといった主要新興国も資本流出リスクを抱える。
報告書では、中国を除くこれらの国々の多くが、経常赤字と財政赤字を同時に抱える「双子の赤字」構造にあり、世界的なリスク回避やドル高局面では資金流出が加速する可能性が高いと分析した。
一方、米国ではステーブルコイン発行体への利息支払いを禁止する新法が成立し、預金流出を抑制する狙いがあるものの、同社は「新興国では依然としてドル建て資産への需要が強い」とみている。
※ステーブルコイン:法定通貨などに価値を連動させ、価格を安定させた暗号資産。
USDT(テザー)、USDC(USDコイン)などが代表例で、国際送金やデジタル決済での利用が進む。
https://plus-web3.com/media/stablecoin/
デジタル通貨主権の再構築へ 各国が模索する新たな金融秩序
ステーブルコインの拡大は、国際送金の効率化や金融包摂の促進という観点で大きな意義を持つ一方、各国の通貨主権を揺るがす構造的リスクも孕んでいるとみられる。
特にドル連動型が市場の大半を占める現状では、デジタル経済の発展がそのまま「ドル圏経済の拡張」につながる懸念がある。
今後、各国は自国通貨建てのステーブルコインや中央銀行デジタル通貨(CBDC)の導入を進めることで、デジタル金融領域における主権回復を模索する動きが強まるだろう。
一方で、民間発行型ステーブルコインのスピードと利便性は依然として圧倒的であり、規制が厳しすぎればイノベーションを海外に流出させるリスクも考えられる。
各国が透明性・裏付け資産の管理基準を国際的に整合させつつ、既存の金融システムと共存できる枠組みを構築できるかが問われるだろう。
今後は、ドル依存から脱却し、地域通貨や多通貨連動型のステーブルコインが台頭する可能性もあり、デジタル通貨を巡る国際金融の勢力図は再編が進むとみられる。
関連記事:
金融庁がステーブルコイン報告書を公表 不正利用の実態と制度課題を整理
