エルサルバドル、量子コンピュータ時代へビットコイン分散管理で資産保全

現地時間2025年8月29日、エルサルバドル政府のビットコイン・オフィスは、国家準備金の保管方法を変更したと発表した。
背景には量子コンピュータが将来的に暗号技術を突破するリスクへの懸念があり、複数の新しいウォレットへの分散管理によってセキュリティを高める狙いがある。
国家準備金を単一アドレスから複数ウォレットに分散
エルサルバドルは、これまで単一アドレスで管理していた国家準備金のビットコインを複数のウォレットへ移行した。
各ウォレットには500BTCの上限を設定し、仮に1つが不正アクセスを受けても被害を最小化できる仕組みとした。
今回の変更は、セキュリティ強化と量子コンピューティングの脅威への備えを両立させる試みである。
同国当局は、量子コンピュータ(※)が将来的に暗号解読能力を獲得すれば、ビットコインだけでなく銀行や通信といった社会基盤が危険にさらされる可能性があると警告した。
特に懸念されるのは取引実行時であり、公開されたデジタル署名を悪用されれば秘密鍵が算出され、承認前に資金が奪われるリスクがある。
これに対し、資金を複数の未使用ウォレットに分けて保管することで、一度に多くの鍵情報が公開される事態を防ぐとともに、各ウォレットのサイズ制限により被害を局所化する方策を導入した。
透明性を理由に単一アドレスで管理していた従来方式は、結果的にリスクを高めていたと認め、新体制では公開ダッシュボードで複数アドレスを追跡できる仕組みを設けている。
この対策ついて、初期のビットコインを牽引した人物であり、ブロックストリームCEOであるアダム・バック氏は、資金を一か所に集中させずUTXO(未使用トランザクション出力)に分散させることは「一般的に良い方法」とコメントした。
※量子コンピュータ:従来のコンピュータが0か1で計算するのに対し、量子ビットを用いて並列的に計算を行う技術。暗号解読やシミュレーションで従来を超える性能を発揮する可能性がある。
量子時代を見据えた分散管理 国際的資産保全モデルの起点になるか
エルサルバドル政府がビットコイン準備金を単一アドレスから複数ウォレットへ分散した動きは、量子時代を見据えた象徴的な一歩といえるだろう。
短期的には、複数アドレス運用がどこまで透明性を担保できるかが焦点になるとみられる。
中期的には、この事例を契機に国際的な議論が加速し、分散管理を前提とした資産保全モデルが標準化される可能性がある。
他国が追随すれば、暗号資産の「公的運用」に関する新たな枠組みが形成されるだろう。
長期的には、量子耐性を持つ暗号方式の導入が現実味を帯び、今回の分散策は過渡期の「つなぎ」として評価されるシナリオも考えられる。
その際には、量子技術と暗号進化が拮抗し、国家の資産保護戦略は一段と高度化するだろう。
総じて、エルサルバドルの取り組みは不確実な未来への先行投資であり、その成果や課題は他国にとっても貴重な参考材料となる。
今後の動向次第で、国際的な資産管理の方向性を左右する起点となり得る。
ビットコイン・オフィス 当該ポスト:https://x.com/bitcoinofficesv/status/1961564696856727947
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