OpenAI、NYTとの著作権訴訟で控訴 ユーザー削除データの保存命令に異議

2025年6月5日、米OpenAIは米The New York Times(以下、NYT)との著作権訴訟において、裁判所から命じられた「削除済みユーザーデータの保存」に対し、控訴したと明らかにした。
命令はChatGPTの利用者全体に影響を及ぼすもので、OpenAIは強く反発している。
OpenAIに削除済み会話ログの保存を命令
今回の訴訟は、2023年12月にNYTがニューヨーク州南部地区連邦地裁へ提起したものである。
NYTは、OpenAIおよび米Microsoftが「数百万件に及ぶNYT記事」を無断でAIモデルの学習に使用したと主張し、著作権の侵害と経済的損失を訴えている。
裁判所は2025年5月、OpenAIに対し、ユーザーが削除したチャットデータを含む「本来であれば削除されるはずのすべての出力ログデータ」を保存するよう命じた。
これはプライバシー保護やデータ削除に関するOpenAIの既存ポリシーと矛盾する内容であるため、同社は重大な懸念を示した。
OpenAIは、現在の運用方針に基づき、ユーザーがチャットを削除すると、30日間の保存期間を経て完全に消去している。
ところが今回の命令は、この削除手続きを一時停止させ、ChatGPTとのすべての対話履歴を保持することを求めるものだ。
OpenAIのブラッド・ライトキャップCOOは公式ブログで「この命令は過剰であり、プライバシー保護を弱めるものだ」とコメントした。
さらに、OpenAIのサム・アルトマンCEOも「当社は、ユーザーのプライバシーを侵害するいかなる要請にも対抗します。これは当社の基本原則です。」とX(旧Twitter)に投稿している。
訴訟命令の波紋 プライバシーと著作権の板挟みに
今回の保存命令は、OpenAIの無料プラン、Pro、Plus、Teamといった幅広いユーザー層に影響を与えると思われる。
一方で、EnterpriseおよびEdu版、あるいはデータ保持ゼロ契約を結んでいる企業顧客は対象外とされているため、影響範囲には差異がありそうだ。
OpenAIはポリシー文書に「一部のサービスにおけるデータ保持は、最近の法的動向の影響を受ける可能性があります。」と注記を追加し、透明性の確保に努めているが、ユーザー側の不安は拭いきれない状況だ。
今回の命令は、AI開発における著作権の適用範囲を問う重要な訴訟の一部であり、AI企業が今後直面する法的・倫理的課題を象徴するものだ。
NYT側は情報の無断利用による「ジャーナリズムの価値毀損」を問題視しており、対話データの保存は証拠保全の観点から必要だと主張している。
一方、AI開発企業にとって、ユーザーデータの削除要求を尊重することは信頼構築の根幹である。そのため、今回のような命令が定着すれば、プライバシー保護の原則が大きく揺らぐ懸念もある。
今後は、AIモデルの透明性とデータ使用の正当性がより厳しく問われる時代が到来するだろう。
参考・本件に対するOpenAIの該当ブログページ:https://openai.com/index/response-to-nyt-data-demands/