飯田市立病院、Salesforce導入で医療DX加速 生成AIと自律型AIを現場実装へ

2025年6月11日、セールスフォース・ジャパンは、長野県の飯田市立病院が同社のCRM基盤「Salesforce」を導入したと発表した。生成AI「Einstein」や自律型AI「Agentforce」も活用し、医療の質と業務効率を両立させるデジタル変革に乗り出す。
生成AIと自律型AIで医療現場を効率化
飯田市立病院は、SalesforceのCRM(※1)製品「Salesforce Service Cloud」を導入し、医療現場でのアプリケーション開発や業務支援を進めている。特に注目されるのは、生成AI「Einstein」や自律型AI「Agentforce」の段階的な実装だ。
同院は、少子高齢化や人手不足といった地域医療の構造的課題に直面しており、医療従事者の負担軽減と生産性向上が急務だった。これまでもシステム導入による効率化に取り組んできたが、従来の電子カルテでは変化への柔軟な対応が困難だったという。
そうした背景から、ノーコード/ローコード開発が可能で、医療現場に即応できるSalesforceの導入を決定。実際に、外部業者向け来院予約や地域医療機関向けの問い合わせ管理アプリなどを自院で開発し、その効果を確認している。
さらに、医療特化型の「Health Cloud」を電子カルテと連携させ、FHIR(※2)形式による標準化データで他医療機関との情報共有を目指す。
生成AIのEinsteinについては、Prompt Builderを活用し、看護サマリー作成支援や情報収集の効率化を実現。効果が明らかになったことで、問い合わせ対応などを担うAgentforceへの業務移管も視野に入れている。
同院ではまた、Slackも導入し、院内外の関係者とのリアルタイム連携に活用。「Agentforce in Slack」の現場運用も検証中だという。
※1 CRM:Customer Relationship Management(顧客関係管理)。顧客との関係を管理・最適化する手法やシステム。
※2 FHIR(Fast Healthcare Interoperability Resources):
医療情報の構造化と相互運用性を目的とした国際標準規格。日本でも政府主導で導入が進められている。
AI導入の恩恵と課題 医療現場に求められる慎重な運用設計
今回の取り組みは、地方中核病院におけるAI実装の好例となる可能性がある。生成AIや自律型AIの活用により、人的リソースの最適化や文書作成の負担軽減が期待される。
特にEinsteinは職種ごとのニーズに応じた情報提供を可能にし、医療の質とスピードを両立できる設計が強みだ。Agentforceも、院内外の問い合わせ業務の一部を担うことで、スタッフの心理的負荷を軽減できると見られる。
一方で、医療データの安全性やAI出力の正確性を担保する仕組みは不可欠だ。AI出力の最終確認プロセスや利用ログの透明性など、慎重な運用設計が求められるだろう。
また、生成AI導入による業務フローの変化がスタッフの混乱を招く恐れもあり、段階的な導入と教育支援が鍵を握る。SlackなどのツールとAIの連携も含め、現場の受容性を踏まえた運用が重要だ。
飯田市立病院のように、地方医療機関が先進技術を活用する動きは、今後の医療DX推進のモデルケースとなる可能性がある。AI活用の実証を重ね、課題を乗り越えれば全国への波及も現実味を帯びてくるだろう。