政府が初のAI基本計画を閣議決定 「信頼できるAI」を国家戦略に据える日本の選択

2025年12月23日、日本政府はAI政策の中核となる初の「AI基本計画」を閣議決定した。「信頼できるAI」を日本の強みと位置づけ、産業データを活用した開発促進とリスク対応の両立を図る。
政府、初のAI基本計画を決定 開発促進と安全性確保を両立
政府は23日午前の閣議で、人工知能政策の方向性を示す「AI基本計画(※)」を正式に決定した。5月に成立したAI法に基づく初の包括的な計画であり、「世界で最もAIを開発・活用しやすい国」を目標に掲げている。
計画では、国際的なAI開発競争やルール形成で主導権を確保するため、〈1〉利活用の推進〈2〉開発力の強化〈3〉ガバナンス〈4〉社会変革――の4方針に沿って政府の施策を体系化した。特徴は、規制と振興を同時に進める設計にある。
開発面では、AI性能を左右する「データの質」に焦点を当て、日本が強みを持つ産業、医療、研究分野の高品質データを活用すると明記した。これにより、AIを現実空間で動かすロボットや「フィジカルAI(※)」の開発を後押しする。AI学習を円滑に進めるため、個人情報保護法の早期改正を目指す方針も盛り込まれた。
一方、偽情報や誤情報の拡散といったリスク対応も柱の一つだ。政府はAIの安全性を評価する「AIセーフティ・インスティテュート(※)」の人員を現在の約30人から倍増させ、将来的には英国並みの200人体制を視野に入れるとしている。
※AI基本計画:AI法に基づき政府が策定するAI政策の中長期指針。開発促進とリスク管理の両立を目的とする。
※フィジカルAI:ロボットなど実空間で動作し、物理的作業や判断を行うAI。
※AIセーフティ・インスティテュート:AIの安全性評価やリスク分析を担う政府系機関。
「信頼できるAI」は武器になるか 期待とリスクの交差点
今回の基本計画は、日本が「信頼性」を軸にAI競争へ参入する姿勢を明確にした点で、一つの方向性を示したと評価できる。
品質管理や説明責任を重視する考え方は、製造業や医療など高い安全性が求められる分野において、国際的な差別化につながる可能性がある。
一方で、ガバナンスを重視するあまり、開発スピードが相対的に低下するのではないかとの懸念も指摘されている。
生成AI分野では迅速な実装と試行錯誤が競争力を左右しており、制度設計のあり方次第では、民間投資が慎重化する局面も想定される。
また、個人情報保護法の改正が、データ利活用をどこまで実務レベルで後押しできるかは現時点では見通せない。解釈や運用が明確にならなければ、企業が大規模なAI活用に踏み切る判断は難しくなる可能性がある。
今後は、基本計画を具体的なルールや支援策に落とし込み、実装をどこまで加速できるかが重要な論点となる。
「信頼できるAI」という理念を、国際市場で競争力のある強みへ転換できるかどうかが、日本のAI戦略を評価する一つの指標になると考えられる。
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